神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「そこのお前、何者だ!?」

「この村に何の用だ!」

「余所者が、足を踏み入れて良い場所ではないぞ!」

ギラギラした目で、彼らは思い思いの武器をこちらに向け、威嚇してきた。

…びっくりした。

寝ずの番を立てているというのは、本当だったのだ。

見知らぬ旅人である俺が、村に入ってきたのを見て。

こうして武器を携えて、俺を取り囲む準備をしていたのだろう。

よく見たら、大人に混じって、子供までいる。

そこでクワを持ってる村人は、まだ若い女じゃないか。

なんて団結力だ。

「出ていけ。余所者はこの村から出て行け!」

「…」

…俺も、段々旅慣れてきたつもりでいるが。

村を訪ねてきた旅人に対して、村人が友好的か、それとも攻撃的に振る舞うかは、村によって様々だ。

これまでも、何度も経験がある。

知らない人物であろうとも、客人が来たとなれば宴会を開かんばかりに歓迎してくれる村もあれば。

村を歩いているだけで、何をしに来た、と石を投げつけ。「出て行け」と怒鳴られる村もある。

…今回は後者のようだな。

まぁ、そういうこともある。

しかも、夜中に煌々と松明を照らすほどの警戒っぷりだもんな。

こんな時間に、見知らぬ人間が訪ねてきたら…そりゃそうもなるだろう。

だからって、槍で突かれるのは御免被りたいがな。

「み、皆、ちょっと待ってくれ!」

ユリヴェーナが、慌てて村人達を止めた。

「彼はただの旅人だ。今晩の宿を探していた。僕達に危害を加えるつもりはない」

その通り。よく言ってくれた。

…しかし。

「余所者を庇うか、それでもこの村の英雄か!?」

武器代わりに熊手を構えたおっさんが、ユリヴェーナに向かってそう叫んだ。

…え…。

…英雄?誰が?

まさか、ユリヴェーナのことか?

「本当に大丈夫だ。それに、僕の家に泊めるんだ。この村で一番安全な場所だろう?」

「…」

「彼のことは、僕が責任を持って見張っておく。勝手なことはさせないし、皆に迷惑もかけない。…この剣に誓って」

ユリヴェーナは『魔剣ティルフィング』を掲げて、そう言った。

魔剣を前にすると、さすがの村人達も少し怯んだようだった。

印籠みたいだな。効果覿面だ。

「…本当に、お前が面倒を見るんだな?見張ってるんだな?」

「あぁ、勿論だ。僕が責任を持つ」

「…」

きっぱりと答えるユリヴェーナに、村人達はようやく、渋々といった様子で武器を降ろした。

ホッ。

危ない危ない。熊手で襲いかかられるところだった。

しかしユリヴェーナと言い、この村人達と言い。

知らない人間を見たらまず襲いかかる、っていうのがこの村の流儀なのかもしれないな。

警戒心が強いのは良いが、人の話を聞かずに襲いかかるのはどうかと思うぞ。

…ともあれ。

ユリヴェーナの説得のお陰で、俺は無事、この村に滞在する許可を得た。
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