神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「おいシルナ!」

急いで、学院長室に向かうと。

「神様仏様幽霊様…!チョコレートをお納めくださいっ…!」

シルナは、上等な陶器のお皿に、鏡餅のようにチョコたっぷりのホールケーキを供え。

それを拝んで、パンパンと手を叩いていた。

何をやってんだ、こいつは。

いや、そんなことはどうでも良い。

「シルナ、お前…」

「あ、羽久いらっしゃい!丁度良かった。お供え用と自分用に、ケーキ二つ買ってきたから、一緒に食べよー」

「…」

シルナはそう言って、満面笑みでケーキを勧めてきた。

…いつものシルナだ。

チョコケーキを勧めてきてるし…特に変わった様子はない。

このとぼけた顔で、生徒を追い返したっていうのか?

とても、そんな風には…。

「…シルナ」

「?何?」

「さっき生徒がさ…。『チョコ食べたいなー』ってぼやいてたぞ」

「えっ!誰?誰!?そんなけしからんことを言う子は!すぐ連れてきて!好きなだけ食べさせてあげるから!」

この食いつきっぷり。

やっぱり、いつも通りだ。

でも、さっきの生徒の話だと、おやつをもらいに行っても突き返されたって…。

シルナに限って、「今日は生憎、チョコのストックを切らしてて…」なんてことは有り得ないはず。

チョコのストックが尽きたら、誰より先にシルナが滅びてしまう。

「誰が言ってたの!?誰?すぐ呼んできて!何ならお友達も呼んできて!皆で食べよう!」

「…普通だな…」

「へ?普通って?何が?」

きょとんと首を傾げる間抜け面も、いつも通りだ。

とても、冷たく生徒を追い返すようには見えない。

多分シルナには、そんな度胸もないんじゃないか。

じゃあ、さっきあの女子生徒が言っていた、心変わりしたシルナっていうのは、一体何のことだ…?

まさか、シルナの偽物が現れた訳ではあるまい…。

と、思ったそのとき。

「失礼しますよ」

学院長室に、イレースがやって来た。

「あ、イレースちゃん良いところに!チョコケーキ如何?」

学院長室にやって来る者には、お菓子を勧めずにはいられないらしいシルナ。

すかさず、チョコケーキを勧めていた。

しかし。

「…何を言ってるんですか?先程心機一転したかと思ったら…もうやめたんですか」

「ほぇ?」

「全く、意志薄弱にも程がありますね。まぁ、あなたがお菓子断ち出来るなんて、本気で信じてはいませんでしたが…」

「…??」

お菓子断ち?シルナが?

いや、出来るはずないだろそんなこと。シルナだぞ?
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