神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
村人達から解放された後。

「…ここだ」

道案内していたユリヴェーナが、不意に足を止めた。

村の一番奥に、他の家より一回りほど大きな家が建っていた。

なかなか豪華な家だ。

他の家は藁葺屋根なのに、この家はしっかりとした一枚板で造られている。

こんな家に住めるのは…。

「村長の家か?」

ってことは、ユリヴェーナは村長の血縁者…。

「いや、村長の家はもっと手前だ。ここは僕の家だ」

…成程。村長の血縁って訳じゃないらしい。

ここが…この村で一番立派なこの家が…ユリヴェーナの住まいなのか。

「村長より立派な家に住んでるとは…」

「僕も勿体ないと思うよ。でも、僕はこの村の英雄だから」

「…」

…英雄…さっきも言ってたな。

「…何で、お前が英雄なんだ?」

「見ただろう?さっき…僕の持つ『魔剣ティルフィング』を」

…あぁ、そういうことか。

何となく理解した。

魔導師である俺の目から見ても、あの『魔剣ティルフィング』の力は本物だ。

非魔導師の目で見れば、まさに英雄の持つ至高の武器に見えるだろうな。

「確かに、あの剣は立派だったな。…剣だけは、だが」

「うぐっ…」

あとは、持つべき人間がもっと立派だったら、完璧だな。

「仕方ないだろう…。僕の他に、あの剣を扱える者がいないんだ」

「扱えるって…。お前、厳密にはあれ…」

「…それを含めて、話したいことがある」

…何?

ユリヴェーナは、真剣そのものの顔で俺を見つめていた。

…頼みたいことっていうのは、その話か?

「…相談に乗ってくれないだろうか?これも何かの縁と思って」

「…」

…そう言われちゃ、断れないだろう。

村人の反対を押し切ってまで、家に上げてもらってるのに…。

「…相談に乗ってやれるが、お前の悩み事が何か解決するとは限らんぞ?」

俺だって、そんな魔剣初めて見たんだからな。

ユリヴェーナの知りたいことを、教えてやれるかどうか。

「それでも構わない。僕と同じく…不思議な力を使う者として、相談したいことがたくさんあるんだ」

…これも何かの縁、か。

やれやれ、何でも物は言い様だな。

「…分かったよ。聞くよ」

「…!ありがとう、感謝する」

ユリヴェーナは、嬉しそうにそう言った。

…このとき、俺がユリヴェーナの頼みを断っていたら、

俺は今頃、『魔剣ティルフィング』をこの手に持っていることはなかっただろう。

…でも。

このとき俺が、ユリヴェーナを無視していたとしても…ユリヴェーナの運命は、きっと変わらなかったはずだ。

『魔剣ティルフィング』を手にした時点で、ユリヴェーナの運命は決まっていたのだから。

「それで?相談したいことっていうのは?」

「…言わずもがな、この魔剣のことだ」

「…そうか」

…だよなぁ。
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