神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「だが、それ故に…外部の人間からは恐れられ、忌まれ嫌われ…疎まれてきた」

「…」

「これまでも、何度もこの村は外の人間に攻撃され…その度に僕達は傷つき、血と涙を流しながら生きてきた。そんな村人達にとって…魔剣を扱うことの出来る英雄は、望んでやまない存在なんだ」

「…それは、理解出来る」

理解は出来るけど。

でも…本当に、お前はそれで良いのか。

『魔剣ティルフィング』…と言ったか。あれを扱えるのは、確かにお前だけなんだろう。

英雄として祀り上げられ、村を守る重責を押し付けられるのも…お前が納得しているなら、俺に止める権利などないのだろう。

…しかし…。

「これまで、この魔剣を扱える者がいなかった為に…魔剣については、まだまだ知らないことが多い。僕はこの剣について、もっと深く知りたいんだ」

「…」

「君なら、何か知っているんじゃないか?僕に知識を授けて欲しい。それが、君に頼みたいことだ」

…そういうことか。

同じ…魔導師である俺なら、この剣について何か分かることがあるんじゃないか、と。

やっぱり、予想通りだったな。

「…期待してくれているところ悪いが、俺もそんな剣は初めて見た。お前が期待しているような知識は持ってないぞ」

「…そうか…」

…だが。

「俺に分かるのは、一つだけだ」

「…一つだけ?それは何だ?」

…こういうことは、言わない方が良いのかもしれない。

本人は、自分が英雄として祀り上げられることに納得しているのだから。

多分、一生…何も知らずに生きて、何も知らずに死ぬ方がずっと、ユリヴェーナにとっては幸せなんだろう。

それでも…今なら、まだ…取り返しがつく。

命を守る為に。

「…このまま魔剣の力を使い続けたら、遠からずお前は死ぬぞ」

俺は静かに、そしてきっぱりとそう言った。

『魔剣ティルフィング』という武器について、俺が知っていることは少ないが。

しかし、これだけは確かだった。
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