神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…死ぬ、と言ったのに。

ユリヴェーナは、眉一つ動かさなかった。

覚悟…していたのか。気づいていたのか。

それとも、現実感が伴っていないのか…。

「魔剣と言うだけあって、その剣…凄まじい闇の魔力を秘めてる。それはさっき見たときに確認した」

非常に強烈な闇の魔力だった。

イーニシュフェルトの里で作られた秘宝…闇の『聖宝具』ほどではないが…それに近しい力を感じた。

…常人なら、剣を手にしただけで、闇の魔力に呑まれてしまいそうなくらい。

これまで、最初の英雄以降、扱える者がいなかったのはそれが理由だろう。

そして、英雄の再来として祀り上げられているユリヴェーナも…。

魔剣を振り回すことは出来ても、扱えているとは言い難い。

むしろ、魔剣に振り回されていると言っても過言ではない。

「その剣は、闇の魔力を行使する武器だ。扱うには、同じく強い闇の魔力の持ち主でなければならない。でも…お前の魔力は闇じゃない。むしろ…光の魔力の持ち主だろう?」

「…」

生まれたとき、闇の魔力を持っているか、それとも光の魔力を持っているかは、遺伝の要素もあるとは言われているが、結局のところ運だ。

これは魔導師が生まれ持つ、一つの個性であって…自分で選べるものではない。

そして、ユリヴェーナの魔力は光。

強い闇の魔力を行使する『魔剣ティルフィング』とは、相容れない正反対の相性なのだ。

「お前の魔力は光の魔力なのに、無理矢理魔剣を扱ってる。身体に合わない武器を、無理矢理身につけているんだ」

アレルギーみたいなものだ。

食べたり触ったりしたらショック反応が起きるのに、我慢して、何度も繰り返し触ったり食べ続けたりしている。

そんなことをしたら、身体に良くないのは誰でも分かることだ。

「さっき、お前が『魔剣ティルフィング』を発動したとき…身体に黒い、痣みたいなものが浮き出ていた」

黒い、蛇のような痣。

あれは…恐らく、拒絶反応だ。

「本来なら扱えないはずの魔剣を、無理矢理使った代償だ。魔剣の持つ強い闇の魔力が、お前の身体を侵しているんだ」

光と闇。相容れない正反対の魔力が、一つの身体の中でぶつかり合っている。

今はまだ、何とか耐えきれているようだが。

しかし、それも長くは続くまい。

ユリヴェーナの光の魔力より、魔剣の持つ闇の魔力の方が強い。

遠からず、いずれユリヴェーナは…闇の魔力に呑まれ、命を落とすことになるだろう。
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