神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「…自覚、あるんだろう?」

俺は、ユリヴェーナにそう確認した。

「…あぁ。魔剣を使う度に、身体に酷い激痛を感じる」

彼女は、否定することなく頷いた。

…やっぱりな。

ユリヴェーナ自身、あの力が危険なものであることは分かっていたのだろう。

だからこそ、少しでも知識のある人間に、意見を求めたかったんだろうな。

「お前は、英雄として讃えられてはいるが…本当は、英雄でも何でもない。乏しい魔力で、身の丈に合わない力を無理矢理行使してるだけなんだ」

それは英雄ではない。

本当の意味で、『魔剣ティルフィング』を扱えている訳ではないのだ。

ユリヴェーナの身体は恐らく、そんなに長くない。

今の時点でも既に…ユリヴェーナの身体には、闇の魔力がかなり浸蝕している。

早いうちに、魔剣から離れないと…本当に、取り返しがつかなくなる。

「このままじゃ、お前は確実に死ぬ。…悪いことは言わねぇ。魔剣を手放せ」

…英雄として讃えられ、しかし、その英雄の名がお前を殺すことになるなら。

そんな滑稽なことってないだろう。

英雄として早死にするより、普通の人間として天寿を全うした方が良い。

そう思ったからこそ、俺はユリヴェーナに警告した。

魔剣を手放せ、と。

…しかし。

「…それは出来ない」

ユリヴェーナは少しも狼狽えることなく、静かにそう答えた。

…お前…。

「それは出来ない…。私はこの村で唯一、魔剣を扱えるんだ」

「扱えてないだろ。それだけ身体を痛めておいて」

そういうのは、扱えているとは言わないんだよ。

魔剣に振り回されているだけだ。

「それでも、だ。例え身体に害を及ぼそうとも…無理矢理でも魔剣の力を使えるのなら、それはこの村にとって『英雄』になり得る」

「…」

「…それにな、僕も気づいていたんだ。…『魔剣ティルフィング』を使い続けたら、僕は死ぬことになる、と」

「…!」

…そう、だったのか。

ユリヴェーナ自身も、気づいて…。

…まぁ、そりゃ気づくよな。

使う度に、魔剣の闇の魔力に身体を侵され、苦痛を味わっていたのだから。
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