神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…俺が秘境の村にやって来て、あっという間に一週間ほどが経過した。

その間、俺はほぼずっと、ユリヴェーナと共に過ごしていた。

というのも、ユリヴェーナが説得してくれたにも関わらず、相変わらず村人からの視線が痛くてな。

村への滞在は何とか許されたものの、余所者感は否めない。

まぁ、無理もないけどな。

これだけ閉鎖的な村では、村の人間じゃない者がいるというだけで、警戒の対象になるのだろう。

ましてや、今は…外部の人間から目をつけられているらしいし。

敵の斥候ではないか、と疑われても仕方ない。

俺を信頼しきっているのは、ユリヴェーナだけだ。

従って、俺が会話をする相手は、ユリヴェーナだけだった。

これほど気まずい立場に置かれているのに、俺は不思議と、村を出ていこうとは思わなかった。

この一週間、俺はユリヴェーナに剣術の指南をした。

ユリヴェーナに頼まれたからだ。

俺は魔導師であって、剣士ではない。

正直、剣の腕にはそれほど自信がない。

が、そんな俺でも、ユリヴェーナにとっては師匠になり得たようで。

毎日何時間でも、ユリヴェーナの特訓の相手をした。

これは良いことだと思った。

ユリヴェーナは現状、魔剣を力任せに振り回しているに過ぎない。

剣術もクソもない。

少しでも剣の腕を上げれば、魔剣の魔力を使わずとも、剣の腕だけで敵と戦うことが出来る。

この一週間で分かったが、如何せんユリヴェーナは、自ら選んで身体に負担のかかる戦い方をしていたようだ。

これまで、この閉鎖的な村の中で…教えてくれる師匠もいないままに戦ってきたのだから、仕方ないとも言えるが。

魔力の使い方も、剣術も、何もかもが力任せ。

魔力の燃費が悪い為に、余計に身体に負担がかかる。

もう少し燃費の良い魔力の使い方を覚えれば、負担は減るはずだ。

俺がそう説明すると、ユリヴェーナは強く頷き、俺に指南を頼んだ。

俺は教師ではないから、大したことは教えられないが…。

それでも、魔力の使い方や剣術を、出来る限り丁寧に教えてやった。

…これなら。

燃費の良い魔力の使い方を覚え、剣の腕も鍛えれば、ユリヴェーナは死の運命を避けられるのではないか。

例え避けられなくても、もうしばらく延命出来るのではないか。

俺は、そんな楽観的なことを考えていた。

ユリヴェーナも、新しい知識を学ぶ度に喜んでいた。

これでもっと、村人達の役に立てると。

この調子で修行を続ければ、ユリヴェーナは魔剣を使いこなせるかもしれない。

…そんな風に考えていたのが、大きな間違いだったとも知らず。
< 578 / 634 >

この作品をシェア

pagetop