神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…更に。

俺がユリヴェーナに教えたのは、魔力の使い方や剣術だけではなかった。

「ほ、本当に食べるのか?み、ミミズ…」

「あぁ。ミミズを丸ごとすり潰して、スパイスと混ぜるんだ」

「ぐ、き、気持ち悪い…。それはどうやって食べるんだ…?」

「何にでも。パンに塗ったり、野菜につけたり…。万能ソースみたいなもんだな」

「それは…美味しい、のか?」

「見た目はアレだが、食べてみると意外と美味いぞ」

「そ、そうか…。美味いのか…意外だな…」

だよな。

俺も最初に食べたときは、それがミミズであることを知らされず。

意外と美味いけど、これ何?と聞いたら、これはミミズだと教えられ。

思わず吐き出しそうになった。

「あの国の料理は、他にもゲテモノ揃いでな…。セミの塩漬けや、鹿の脳みそなんかも普通に食べてた」

「うぐっ…」

「ケーキの飾り付けは、カタツムリの砂糖漬けが定番で…」

「も、もう良い、ジュリス。それ以上言うな。今晩の夕食が食べられなくなる…」

それは失礼。

でも、ユリヴェーナが知りたいって言ったんだぞ。

俺がこれまで旅して回ってきた、外の世界の国について聞きたい、と。

ユリヴェーナは、閉ざされた秘境の村に生まれ、この村から出たことはないそうで。

外の世界に対して、強い好奇心を抱いていた。

それで俺は、これまで旅してきた国の話をしてやった。

概ねは、喜んで聞いていたユリヴェーナだが…。

とある国の、独特な食文化の話をすると…さすがのユリヴェーナも、青ざめた顔をしていた。

大陸の向こう側、大海を越えた先にある国のことだ。

あの国は、こちらとは大きく文化が異なっている。

ミミズだのカタツムリだの…。魚一匹にしても、深海魚みたいなグロい見た目だったもんな。

あれを見せてやれないのが残念だ。

きっと、ユリヴェーナは悲鳴をあげていたことだろう。

でも、食べてみると味は悪くないんだぞ。不思議だよな。

更にあの国には、ゲテモノ食いの食文化だけではなく。

「他にも…あの国の人間は、白が好きでな」

「しろ?…城?」

「いや、白色のことだよ。白い色が好きなんだ」

「そうなのか?何故…?」

「そういう国民性なんだよ。何者にも染まらない、自由と純潔の象徴らしい。建物も植物も、国民が着ている服も、何もかも真っ白なんだ」

「ほう…?それは凄いな…」

だろ?

あまりに皆が白い服ばっかり着てるから、これが国民服なのかと思ったよ。

「そんなに真っ白なのか?」

「あぁ。右見ても左見ても、白ずくめの国だよ」

それなのに、食べ物はグロいゲテモノ揃いなんだもんな。

不思議な国民性してるよ。

「そうか…。各地を転々と旅をするというのも、なかなか良いものだな。様々な国の様々な文化…。是非とも見てみたいものだ」

と、ユリヴェーナは腕組みをしてそう言った。

「見に行ってみれば良い。いつかお前も」

人生は長いんだからな。

いつか村人の為ではなく、自分の為に生きる日々が、きっとやって来る。

生きてさえいれば、どんなことでも起きるだろう。

「いつか、お前も自分の舌で…ミミズペーストを味わってみろよ」

「…そうか…。そうだな、もしそんな日が来るなら…それは楽しそうだ…」

何処か遠くを見つめるような目をして、ユリヴェーナが言った。



…そのときだった。



家の外から、耳をつんざくような破裂音が聞こえた。
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