神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
それからというもの。

俺はユリヴェーナに託された『魔剣ティルフィング』を、己の中に封印した。

あれ以来一度も、俺が『魔剣ティルフィング』を手にしたことはない。

俺はユリヴェーナと違って、闇の魔力に身体を侵される危険はないし、そういう意味ではユリヴェーナより上手く、この剣を扱えるのだろう。

しかし、流浪の旅人に過ぎない俺に、あのような…「重い」剣を使うことは出来なかった。

決して忘れることはないけれど、『魔剣ティルフィング』は封印され、二度と日の目を見ない…はずだった。

…で、秘境の村がその後、どうなったのかについてだが…。

後になって聞いたところによると。

新しい秘境の村は、その後何百年、何千年も存続し続けたそうだ。

皮肉なもんだ。

英雄なんかいなくても、いないならいないなりに、それなりに生きていけるんだな。

ただ、あれほどユリヴェーナが「新天地で村人達の未来が」云々言っていたにも関わらず。

村人達が引っ越していった先でも、何千年も経つうちに、また秘境の村は当時の政府に目をつけられ。

異端者として迫害を受け続け、今や秘境の村の住民は、ほぼ絶滅しているそうだ。

…これが、秘境の村に待っていた未来、か。

ユリヴェーナは、見なくて正解だったかもな。

…あぁ、そうだ。

確か今は、秘境の村じゃなくて。

…秘境の里、と呼ばれているそうだぞ。

村が里になったからって、それで何か変わった訳じゃない。

今でもあの場所は、英雄であるユリヴェーナにとって、愛すべき故郷以外の何者でもなかろう。
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