神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
翌朝。

「ベリクリーデ。そろそろ起きろよ」

「…んー…」

声をかけると、ベリクリーデはもそもそ、のそのそと起き上がった。

よく寝てたな、お前。

「…?」

「目が覚めたか?」

ベリクリーデはベッドに座って、じーっとこちらを見つめ。

「…ジュリス、いつの間に遊びに来たの?」

と、聞いた。

ちげーよ馬鹿。逆だ。

俺がお前の部屋に遊びに来たんじゃなく、お前が俺の部屋に遊びに来たんだ。

そのせいで、俺は昨夜、一睡もしてないからな。

お陰様で、溜まってた書類仕事が全部綺麗に片付いたよ。

どうもありがとうございますね。

畜生。 

…言っとくが、何も疚しいことはしてないからな。

「さっさと起きて、自分の部屋に戻って着替えてこい」

「んー」

ベリクリーデは、ゆっくりと起き上がったが。

まだ眠たいのか、寝ぼけているだけなのか。

酔っ払いみたいに、右にふらふら、左にふらふらしていた。

「なんか、腰が痛い…」

「あぁ。俺のベッド、硬めのマットレスを敷いてるからな…」

慣れないベッドで寝たせいだろ。あと寝相。

「あぅ〜…」

「あぁ、もう危なっかしい…。ちゃんと立て、ほら。ついてってやるから」

「ありがとージュリス…」

保護者かよ、俺は。

全く、俺はこんな可愛げのない、デカい子供を作った覚えはないぞ。

「やれやれ…」

と言いながら、俺はベリクリーデを連れて部屋を出た。

…ところに。

「…」

「…」

まるで待っていたかのような、絶妙なタイミングで。

通りすがりの同僚、聖魔騎士団魔導部隊大隊長のエリュティアが。

ベリクリーデを連れて出てきた俺を見て、愕然と目を見開いていた。

…。

…おはよう。良い朝だな。

「…!?…ベリクリーデさんが…ジュリスさんの部屋に…!?」

おい、やめろ。

お前は今、物凄い誤解をしている。 

「待て、違う。エリュティア、話を聞け。これにはのっぴきならない事情が、」

「ジュリス。私ジュリス(の、ベッド)のせいで、腰痛いよ」

「お前はちょっと黙ってろ!」

誤解の火に油を注ぐな。

エリュティアの顔は、確信犯を見るそれ。

違うんだって。いや本当に。

「俺は何もしてない。何もしてないからな!」

「?そんなことないよ。ジュリスは昨日の晩、凄く…頑張ってたよ。遅くまで起きてて、私の為に…頑張ってくれたんだ。私ちゃんと見てたから、知ってるよ」

だから、お前は余計なこと言うなって!

その誤解を誘発する言い方やめろ!

すると。

「…大丈夫です、ジュリスさん」

エリュティアは、真顔で頷いた。

「このことは…その、皆さんには内緒にしておくので…」

「だから…ご、か、い、だっ!!」

俺はスタッカートをつけて、半ば涙目でそう叫んだのだった。
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