神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「うわぁ…。真っ暗…」

夜の空も真っ暗で、二人にとっては恐ろしかったが。

建物の中に入ると、先程までとはまた違う、別の不気味さを感じた。

昼間の明るい校舎内しか知らない為に、余計、静まり返った校舎内が不気味だった。

二人共、執拗に視線を動かし、きょろきょろしながら校舎内を歩いた。

その足取りは重く、忍者のように静かだった。

「ね、ねぇ…」

片方の少女が声をあげた。

「な、何?」

「こ、この校舎って…その、幽霊とか出ないよね?」

二人共、内心怯えていたことを口にした。

「ま、まさか。変なこと言わないでよ」

「でも…。聞いたことない?学院の七不思議って…」

「それは…あるけど、でもあれって、デマなんでしょ?」

「そうなの…?」

「学院長先生とグラスフィア先生が、実際に確かめたって…」

「そ、そうなんだ…。じゃあ、大丈夫だよね…」

「…」

大丈夫だと言いながら、二人はちっとも安心していなかった。

俺とシルナが、いつぞや校舎内を歩いて確かめた、七不思議の噂が本当か否か。

二人の少女には知る由もなかったし、そもそも七不思議の噂がなくても、怯える理由は充分にある。

イーニシュフェルト魔導学院は、ルーデュニア聖王国建国以来、古くから存在する、歴史ある学院だ。

建物は、何度も改修工事をしているとはいえ、やはり古いものだし。

歴史があるということはすなわち、それだけこの校舎で、様々な出来事が起きたということだ。

二人が知らないだけで、もしかしたら、校舎内で死亡事故が起きたことがあるんじゃないか、とか。

学院に恨みを持つ誰かの魂が、校舎内を彷徨ってるんじゃないか、とか。

想像力豊かな思春期の少女達が怯えるには、充分過ぎるシチュエーションである。

…ちなみに、学院の名誉の為に断っておくが。

校舎内で、生徒の死亡事故が起きたことはない。

学院が創立されて以来、そのような不名誉は一度も起きていない。

全ては、学院内の生徒を何としても守るという、学院長シルナ・エインリーの献身的な努力の賜物である。

…それはともかく。

二人の少女は、きょろきょろと周囲を見渡しながら、何とか教室に辿り着いた。

校舎に鍵がかかっている為、教室の扉は施錠されていない。

二人共、がらがらと教室の引き戸を開けて、中に入った。

相変わらず真っ暗で、不気味な校舎ではあったが。

少しずつ、二人共慣れてきていた。

「早く、急いで」

「ちょっと待って。…確かここに…」

少女は机の引き出しの中を覗き込み、目当てのノートを探り出した。

「良かった、あった…」

胸を撫で下ろしながら、ノートを掴む。

これでもう、不気味な夜の校舎に用はない。

あとはノートを持って、学生寮に帰るだけだ。

二人共ホッとして、教室を出た。




…そのときだった。



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