神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
追い出そうとしたが、ベリクリーデは何のその、ちょこんとベッドに座った。

当たり前のように入ってきて、当たり前のようにくつろいでる。

「あのな、ベリクリーデ。一昨日も言ったろ?夜中に男の部屋に入ってくるもんじゃ…」

「ジュリス、野球やろう」

「…は?」

や…。

…野球?

「野球やろうよ、一緒に」

ベリクリーデはわくわくした様子で、そう誘ってきた。

…夜中に人の部屋を訪ねて、野球やろうって、お前。

「…何で野球…?何処から出てきたんだ、それ…」

「昼間にね、訓練場でお喋りしてる人がいたの。自分の子が最近、野球チームに入ったんだって」

へぇ、そうなのか。そりゃ良いことだ。

最近は色んなスポーツがあって、選択肢の幅も広がっているが。

それでもやっぱり、野球とサッカーは、少年スポーツのド定番だよな。

「だから、私も野球少年になりたいんだ」

…あ、そう。

そりゃ、夢を語るのは自由だけどさ…。

「…野球少年にはなれんだろ。お前女なんだから」

「…!男女差別…!?」

いや、男女差別じゃなくて。女なんだから、少年は無理だろ。

「なれるとしたら、野球少女…いや、少女って年齢じゃないから、野球少女も無理だけどさ…」

「甲子園に行って、金メダルを取りたいんだ」

言いたいことは分かるが、甲子園で金メダルは取れんだろ。

そりゃまた大きく出たな…。

「甲子園って…。あのな、あれは高校生が出るものであって…」

「何歳からでも、夢を追うのに年齢は関係ないって、偉い人が言ってた」

無駄に説得力のある屁理屈こねやがって。

それは俺もそう思うけどさ、でもあれ、建前だろ?

いくら元気とやる気があっても、やっぱり無理なものは無理だ。

…まぁ、良いか。

ベリクリーデのことだから、どうせすぐ飽きる。

今だけ、ちょっと付き合ってやれば良いだけだ。

しかし野球、な…。

ベリクリーデが、野球に興味を持つとは思わなかったな。

「どのポジションにするんだ?」

「…ポジション?」

「やりたいポジションがあるんだろ?」

やっぱり、定番の…ピッチャーか?

それともキャッチャー?

どっちも夢があるよな。

ベリクリーデはノーコンピッチャーっぽいから、精々ベンチウォーマーが良いところだけど。

「それとも、打つ方をやりたいのか?」

バッティングの腕を鍛えて、四番バッターになるっていうのも良いよな。

ますます夢が広がる。

うん。ベリクリーデは絶対ノーコンだから、防御より、打者性能を上げた方が良いかもな。

今俺、ベリクリーデが転がってきた球をトンネルする姿が見えた。

こいつは絶対にやる。

…すると。

「私、ダンクシュート決めたい」

「…は?」

満塁場外ホームランでも、完全試合でもなく。

全く別の用語が、突然出てきたんだけど?
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