神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
いずれにしても、こいつは敵だ。

野放しにはしておけない。

「お前は何処の誰だ?」

俺は杖を構えて、偽シルナに尋ねた。

ようやく、冷静さを取り戻した。

「いつから学院に忍び込んでる?質問しに来た生徒達を追い返してるのは、お前の仕業なんだな?」

「うん、そうだよ」

偽シルナは、これもあっさりと認めた。

やっぱり。

シルナらしからぬ噂が流れていると思ったら、それは本物のシルナではなく、この偽シルナの仕業だったのだ。

そういうことだったのか。

道理で、シルナにしては有り得ないことをすると思った。

全てはシルナではなく、この偽物野郎の仕業だった。

「答えろ。お前は何者なんだ?」

「私はシルナだよ。シルナ・エインリーだ」

こいつ…いけしゃあしゃあと。

「お前はシルナじゃない。シルナの偽物だ」

姿形が同じだからって、同一人物になれると思うなよ。

シルナらしからぬ言動をするお前は、真っ赤な偽物だ。

いくら外見がシルナそのものだとしても。

「どういうつもりで、シルナの格好をしてるんだ」

「私は本当にシルナだよ。紛れもなく、れっきとしたシルナ・エインリーそのものだ」

「…まだ言うか」

勝手にシルナの格好をして、勝手にシルナのフリをして。

挙げ句、自分は本物のシルナ・エインリーであると主張している。

なんて傲慢な奴だ。

「少し痛い目を見た方が良いか?」

俺は、威嚇するように偽シルナに杖を向けた。

俺がシルナに杖を向けることなんて、本来は有り得ない。

でもこいつは、姿形が同じなだけで、中身は偽物。

だったら、杖を向けることに躊躇いはない。

しかし、偽シルナは杖を向けられても、全く動じていなかった。

「まぁ、落ち着いて羽久。私は確かに、オリジナルのシルナ・エインリーじやないかもしれない。だけど、シルナであることは本当なんだよ」

「気安く俺の名前を呼ぶんじゃねぇ。見た目が同じでも、中身が別物なら、それは偽物なんだよ」

「成程、君の言う通りだ…。だけど私は、確かにシルナ・エインリーだよ。シルナ以外の何者でもないんだ」

…何言ってるんだ。

「一体どういうことなのか、説明してもらいたいですね」

イレースも、いつの間にか片手に杖を握っていた。

…いざとなったら、俺とイレースで挟み撃ちに出来る。

そんな緊迫した状況だというのに、偽シルナは、相変わらず余裕の笑みを崩さなかった。
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