神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
シルナが真面目になれば、イレースは喜ぶかもしれないが。

しかし、俺は喜ばないぞ。

だって、それは断じて…シルナではない。

「俺は、お前のことを認めない」

俺はきっぱりと、ドッペルゲンガーシルナに向かって言った。

お前がいくら、本体より立派な人格者で、教師として相応しい人間であろうとも。

それが何だって言うんだ。

本物より立派な偽物を連れてきたからって、そいつが本物になれることはない。

いくら「オリジナル商品より優れているから」とイミテーションを作ってきたからって、イミテーションはイミテーションだろう?

そういうことだ。

偽物は所詮、偽物でしかないのだ。

オリジナルに敵うことはない。

「大体、お前は何なんだよ」

それを、まだ聞いてないぞ。

いきなり俺達の目の前に現れて、シルナのフリして好き勝手やって。

シルナのドッペルゲンガーですなんて、訳分からないことを言って。

「ドッペルゲンガーなんか、何処から出てきたんだ?何の目的で、誰の意図で、俺達の前に現れた?」

俺だって、それなりに長く生きてるけど。

ドッペルゲンガーなんて、ホラー映画で見たことはないぞ。

本当に実在するんだな。

いや、これは実在している内に入るのか?

いずれにしても、こいつが本物の立場を乗っ取ろうとしている以上、悪意があるとしか思えない。

どうやっても、俺と仲良くはなれないだろうよ。

「答えろ。さもなくば、お前には消えてもらう」

俺は、ドッペルゲンガーシルナに杖を向けてそう言った。

…まぁ、正直に話したとしても、消えてもらうことに変わりはないがな。

俺は絶対に、お前を本物とは認めない。

…すると。

「…『オオカミと7匹の子ヤギ』、って知ってる?」

爛々とぎらつく目で。

ドッペルゲンガーシルナは、有名な童話の名前を口にした。

…何だって?
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