神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
俺もイレースも、突然出てきた童話の名前に、訝しげに顔をしかめるしかなかったが。

「…まさか…!」

ずっと黙っていたシルナが…本物のシルナが…愕然と声をあげた。

…もしかして。

「知ってるのか?シルナ…」

「いや、そんなまさか…でも…『オオカミと七匹の子ヤギ』って…」

…知ってるようだな、その様子だと。

『オオカミと七匹の子ヤギ』とやらが、この謎のドッペルゲンガーが現れた原因なのか?

それにしても、『オオカミと七匹の子ヤギ』。

言わずと知れた童話のタイトルだが、それがこの偽シルナと、どう関係が…。

…ん?童話…?

童話って…なんか嫌な思い出が…あったような。

思い出して、背筋が冷たくなったとき。

「もしかして、またくそったれなイーニシュフェルトの里の遺産ですか?」

イレースが、物怖じせずにズバリと尋ねた。

あぁ…。俺が恐れていたことを、そんなにあっさりと…。

すると。

「…認めたくないけど…覚えがあるよ」

シルナは、観念したようにそう言った。

やっぱりそうなのか。

思い出す。前回の…白雪姫の件。

あれは嫌な事件だったよ。

あのときの騒動が、ようやく収まって、一件落着と肩の荷を降ろしたというのに。

今度は、また別の童話の名前を関する里の遺産が、目の前に現れた。

今度は、『オオカミと七匹の子ヤギ』だそうだ。

誰でも知っているであろう、非常にベターな童話だが。

獰猛なオオカミが出てきたり、食べられたり、腹を裂かれたりと、意外と残酷さを秘めているストーリーだと思う。

そして今、その残酷な童話のタイトルを冠する、謎の遺産が目の前にいる。

全く意味が分からないよ。
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