神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「何でまた出てきたんだ?棺は何処だよ?」

前回の『白雪姫と七人の小人』は、園芸部の畑から白雪姫の棺を掘り当てた。

その棺を開くことで、『白雪姫と七人の小人』が発動したのだ。

今回の遺産は、誰が掘り当てた?

誰かが、封印されていた遺産を起動させたのだろう。

しかし。

「いや…『オオカミと七匹の子ヤギ』のトリガーは棺じゃない。絵本なんだ、小さな絵本」

と、シルナは答えた。

絵本…?そんなの見てないぞ。

「多分、誰かが封印されていた絵本を見つけて、それを開いたんだと思う…」

…誰か…って。

一体誰が、そんなことをしたのか知らないが…。

とにかく、このシルナのドッペルゲンガーは、『オオカミと七匹の子ヤギ』という童話の遺産のせいなんだな?

…そうと分かれば。

「このシルナの偽物には、さっさと消えてもらう」

俺は、再度杖を握り直した。

忌々しいイーニシュフェルトの里の遺産だと言うなら、余計、手加減してやる必要はない。

前回の白雪姫には、散々痛い目を見せられたからな。

あのときの復讐の意味も込めて、ぶっ飛ばしてやる。

シルナの姿をして出てきやがって、この偽物が。

「シルナ、こいつも何か条件があるんだろう?」

思い出す。『白雪姫と七人の小人』の、超面倒臭い手順。

小人の言うことを聞いて、何日も奴らの我儘に付き合ってやった。

挙句の果てに、そこまでしたというのに、結局白雪姫は大暴走。

力ずくで白雪姫を黙らせ、棺の中に封じ込めた。

あれは、本当に大変な事件だったよ。

白雪姫でアレだったのだ。

同じ童話シリーズなら、きっとこいつも、面倒な手順を踏まなければ消えないのだろう。

今度は何だ?何をすれば良いんだ。

…しかし。

「ドッペルゲンガー…子ヤギに化けたオオカミが消える条件は、オオカミだけが知ってる」

シルナはそう答えた。

オオカミだけが…?

つまり、このドッペルゲンガーだけが知っていると?

「じゃあ、こいつを叩いて殴って、こいつが消える条件を聞き出さなきゃいけないってことだな?」

俺がそう尋ねると、

「叩いて殴っても無駄だよ。私に痛覚はない。拷問には屈しない」

ドッペルゲンガーシルナが、生意気なことを言った。

何だと、この野郎。

だったら、本当に拷問に屈しないのか、試してやろうか?

とりあえず、イレースじゃないが、脳天に雷魔法を落としてやろう。

と、思ったら。

「それに、私が消える条件は、とても簡単だよ。暴力なんて必要ない」

いけしゃあしゃあと、ドッペルゲンガーシルナが言った。
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