神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…条件は簡単、だと?

「自分で簡単とか言ってる奴が、実は一番面倒臭いことを言うもんだ」 

きっと、あれをあれして、これをこれして、それをそうして、どれをどうするだけで消えるよ、とか言うんだろう。

何が簡単だよ。めちゃくちゃ面倒臭いじゃないか。

「大丈夫だよ。本当に簡単だから」

「だったら、言ってみろよ」

「私が消える条件は、一つだけだよ」

…一つ?

じゃあ、その一つが死ぬほど面倒臭いんだろう。

お月様を取ってきてくれたら消えてあげるよ、とか。

無理に決まってるだろ。

…しかし。

「君達に選んで欲しいんだ。ドッペルゲンガーである私と、本体のシルナ・エインリー。どちらが良いか」

「…は?」

「オリジナルの私と、このドッペルゲンガーの私。君達は、どっちがより優れたシルナ・エインリーだと思う?」

…笑顔で。とぼけた顔をして。

いきなり何を聞き出すんだ。

本物と、このドッペルゲンガーと、どっちが良いかって?

どっちが優れたシルナかって?

馬鹿なことを聞くもんじゃない。

「もしオリジナルの方が優れてると言うなら、私は消えてあげるよ。それが、私が消える条件だ」

…ふーん。

本当に、簡単そうな条件だな。

まぁ、お前がそれで納得して消えるんなら、それで良いよ。

じゃあ、言ってやるよ。

「偽物は消えろ」

オリジナルに勝る偽物なんて、この世にいないんだよ。

当たり前のことを聞くな。

「お前はシルナの顔をした偽物だ。偽物が、偉そうな顔すんな」

シルナの顔が二つ並んでるってだけで、違和感で気持ち悪いのに。

偽物は、さっさと消えてくれないか。

しかしドッペルゲンガーシルナは、俺がそう答えることを予想していたらしく。

「成程、確かに私は偽物だね」

あっさりとそう認めた。

おぉ。よく分かってるじゃないか。

だったら、偽物に人権がないことも認め…、

「だけど、私は偽物ではあっても、劣化版ではないよ」

…は?

劣化?

「むしろ、本物の上位互換的存在だと思うんだ。そうじゃないかな?」

…本物の…上位互換?

このドッペルゲンガーが?

偽物の癖に、「私は本物よりも優れた存在です」と主張するのか?

なんと生意気な奴だよ。
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