神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「お前の何処が、オリジナルより優れてるんだよ?」

「だってそうじゃない?私は、オリジナルのシルナが持つ欠点を、全て克服してるよ」

「…」

オリジナルのシルナが持つ欠点。

それは、つまり…?

「授業中に、こっそり学院長室でお菓子を食べるようなことはしない。生徒達が勉強してるのに、教師が遊んでる訳にはいかないからね」

…うん。

「そもそも、学院長がお菓子に夢中になるなんて、その時点でおかしいよね。余計な出費だし、無駄遣いだ。誰よりもお手本となるべき学院長が、遊びの為にお金を使ってるようじゃ、他の人に示しがつかない」

…うん。

「そんな余裕があるなら、少しでも節約して、生徒の為に使うべきだよね。教師として当たり前のことだ」

…うん。

「学院の雑務も、私が積極的にこなしてみせるよ。オリジナルの私は、しょっちゅうイレースちゃんに任せてるけど…。そういう地味な仕事ほど、学院長が率先してやらないとね」

…。

「学院長として、何一つ落ち度のない人間になる。それが本来、シルナ・エインリーのあるべき姿じゃないかな?私はそう思うんだけど。君達はどう思う?」

…。

…そうだな。

「…何だか私、オリジナルの学院長に代わって、この方に学院長をやってもらった方が良いような気がします」

イレースが、至って真顔でそう言った。

「ちょ、い、イレースちゃん?わ、私の味方をしてくれないの!?」

オリジナルシルナは、焦った様子でそう言った。

だって仕方ないだろ。

俺も、イレースの気持ちはよく分かる。

このドッペルゲンガー…。ドッペルゲンガーだけど、非常に優れた人格者だ。

学院長の鑑だぞ。

ドッペルゲンガーシルナが、マジでイーニシュフェルト魔導学院の学院長になったら。

きっと、学院は今より秩序と統制の取れた、規律正しいイーニシュフェルト魔導学院になることだろう。

そしてそれはきっと、イレースにとって理想の学院に違いない。

「俺も同感だよ、イレース…」

「ちょ、羽久!?羽久、私の味方、」

「ね?私の方が優れてるでしょう?」

「あぁ、認める」

「えぇぇぇぇ!」

オリジナルシルナの断末魔は置いておいて。

得意げに、自分の方が優れていると主張するドッペルゲンガーシルナの言い分は、最もだ。

俺もそう思う。確かに、ドッペルゲンガーシルナの方が、学院長として優れているのかも。

そんなドッペルゲンガーシルナが学院長になったら、きっとより良い学院になるんだろう。

「だったら私を選んでくれないかな。必ず、今よりも素晴らしい学院にしてみせるよ」

「…」

「君達にとっても、悪い話じゃ…」

「そう、悪い話じゃないかもな」

少なくとも、イーニシュフェルト魔導学院にとっては悪い話じゃない。

イレースの仕事が減るなら、イレースにとっても悪い話じゃないだろう。

でもな。

「お前は消えろ」

偽物であるお前が、イーニシュフェルト魔導学院の学院長をやる、だと?

馬鹿も休み休み言えよ。
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