神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
何度も言ってるだろう。

オリジナルより優れた偽物は、この世にはいないのだと。

「…」

ドッペルゲンガーシルナは、驚いたような顔でこちらを見ていた。

何も驚くようなことはないだろ。

「偽物なんだから、お前が本物になることは有り得ない。分かったら、さっさと消えてくれ」

「…どうして?私の何が不満なの?」

不満だと?

不満なら、いくらでもあるに決まってるだろ。

「あぁ、私を選んでしまったら、オリジナルを殺すことになると思ってる?大丈夫だよ。私はオリジナルを消したりしない。学院を出て、好きなところに行けば良い」

そういう問題じゃねぇよ。

もしオリジナルシルナが、ドッペルゲンガーシルナに学院を追い出されるようなことがあったら。

俺は、オリジナルシルナについていくよ。

当然だろう?

お前がいくら、オリジナルより優れたポテンシャルを持っていようと。

オリジナルを超える人格者だろうと。

学院にとって、為になる人物であろうと。

でも、お前はシルナの偽物だ。

シルナじゃない。

「優れた学院長であるかどうかは、俺にとってどうでも良いんだよ」

例えシルナが、口にするのも憚れる酷い学院長だったとしても。

だからって、偽物とすり替えたいとは思わない。

だって、それはシルナじゃないだろう?

シルナの顔をしたお人形だ。

俺が一生ついていくと決めた人物は、断じてお人形などではない。

「俺は、優れた方についていくんじゃない。本物のシルナについていくんだ」

「…」

「だから、お前は消えろ。お前はシルナじゃない。シルナの顔をした偽物に用はない」

俺は、きっぱりとそう告げた。

これには、ドッペルゲンガーシルナも無言だった。

「は…羽久…!」

オリジナルシルナは、半泣きで俺を見つめていた。

何めそめそしてるんだ。呆れた奴。

俺が、ドッペルゲンガーの方を選ぶとでも思ったのか?

酷い誤解だ。

俺よりも優れた俺のドッペルゲンガーが現れたら、お前はそっちを選ぶのか?選ばないだろ。

それと同じことだ。

どれだけ本物より優れていようと、偽物を選ぶことは有り得ない。

人間としての優劣なんか関係ない。俺にとって大事なのは、シルナ・エインリーという人間そのものなのだから。

優れているどうかなんて、そんなの二の次だろう。

…そして。

「全くですね。我が物顔の偽物は、さっさと消えてもらいたいものです。非常に不快です」

イレースもまた、眉間に皺を寄せてそう言った。
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