神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…。

…シルナのドッペルゲンガーは、無事に消えたが。

それ以上に奴は、いかにも厄介そうな「置き土産」を残していった。

他の六匹…。

ってことは、つまり…あと六体のドッペルゲンガーが現れるってことか…。

『オオカミと七匹の子ヤギ』。ドッペルゲンガー。イーニシュフェルトの里の遺産。

気になることは山程あるが、まずは…。

「う、うぅ…。羽久〜っ!!」

「うわっ、何だよ?」

シルナが半泣きで飛びついてきた。

ちょ、おい。鼻水。

「うぅ、羽久〜っ…!」

「何だよ?」

「に、偽物。偽物の方が良いって言うんじゃないかって…」

…何を言ってるんだか。

「そんなこと言う訳ないだろ、馬鹿」

偽物を選ぶと思ったのか?俺が?

だとしたら、みくびられたもんだ。

「砂糖で脳みそをやられてようが、前世がパンダだろうが…シルナはシルナだろ?代わりなんて何処にもいないんだよ」

「うぅ…羽久ぇ…」

「ほら、もうめそめそすんな」

「ふぇぇぇぇぇん!」

あーあ。もう、服に鼻水が…。

「…」

イレースは泣きじゃくるシルナを、まるで汚物のように眺めていた。

やめろ。そんな目で見るな。

俺だって嫌なんだぞ。

「消えて頂いたところ恐縮ですが、やはり戻ってきてもらった方が良いかもしれませんね」

それを言うなって。俺まで後悔しそうになるだろ。

「それより、今は…」

「えぇ…。…『オオカミと七匹の子ヤギ』でしたっけ?新しい里の遺産の封印が解かれた件について、話し合わなければなりませんね」

「あぁ。すぐに、ナジュ達を呼んでこよう。あいつらも交えて…」

「分かりました。すぐに呼んできます」

「ぴぇぇぇぇぇん!」

「お前はいつまで泣いてるんだよ!」

いい加減、俺の服に鼻水つけるのをやめろ。
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