神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
涙目のシルナの代わりに、イレースがナジュ達を呼んできてくれた。

「わっ…。が、学院長先生、どうしたの?」

俺にくっついて、めそめそやってるシルナを見た、天音の一言である。

「俺に聞くな…」

俺も迷惑してるんだよ。

「何々?お化けの件?」

「お化け捕まえたの?」

元暗殺者組が、興味津々で聞いてきた。

あー、うん…。お化け…あの幽霊の件な?

今思ったけど、あの幽霊騒ぎも…。

「…もしかしたら、あの黒い影って、さっきの…」

「えぇ、その可能性はありますね。我々のうち、誰かのドッペルゲンガーが、校舎内を彷徨いているのかもしれません」

つまり、あの黒い影は幽霊ではなく。

『オオカミと七匹の子ヤギ』によって生み出された、ドッペルゲンガーだったのかもしれない。

そう考えれば辻褄は合う。

最近になって、突然出てきたことにも説明がつく。

「オオカミ?子ヤギ?」

「食べるの?」

「…食べねぇよ…」

まずは『オオカミと七匹の子ヤギ』について、皆に説明しないとな。

「ふむ、成程…。それはまた、面倒なことになりましたね」

事情を説明するまでもなく、俺の心を読んで状況を理解したらしいナジュである。

そうなんだよ。何とかしてくれ。俺の代わりに。

とりあえず、このシルナを引き剥がすことから始めてくれないかな。

「ほら、シルナ。お前が説明するんだよ」

「…ほぇ?」

「ほぇ、じゃなくて。イーニシュフェルトの里の遺産なんだろ?」

俺もイレースも、まだ詳しくは聞いていないのだ。

その説明が出来るのは、イーニシュフェルトの里を知っているシルナだけ。

「あぁ、うん…。『オオカミと七匹の子ヤギ』ね…。でも、あれも私が作った訳じゃないから、はっきりしたことは分からないんだよ」

白雪姫のときと同じだな。

「それは仕方ない。分かってる範囲で良いよ」

「うん…。分かった…」

…まずは、事情を知らない天音達の為に。

先程出てきた、シルナのドッペルゲンガーについて説明しないとな。
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