神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「僕がいない間に…そんなことが…」

一通り事情を説明すると、天音はこの反応であった。

ま、そりゃそうなるよな。

「あの白雪姫って、シリーズになってたんですね」

ナジュはこの反応である。

そうらしいな。

白雪姫に苦しめられたのは記憶に新しいが、今度は別の童話シリーズが、

「…『八千歳』。どっぺるげんがーって知ってる?」

「さぁ。お化けのことじゃないの?」

「それって、普通のお化けとどう違うんだろう」

「きっとルーデュニア聖王国では、お化けをそう呼ぶんだよ」

「そっか。お化けはお化けなのに、何でそんな難しい言い方をするんだろうね」

そして、ドッペルゲンガーを知らない元暗殺者組。

ジャマ王国にはいないのか。そうか。

まぁ、あくまで都市伝説だからな。

俺だって今日に至るまで、ドッペルゲンガーなんて空想上の存在で、実際に見たことなんかなかったよ。

「で、何ですか。あの『オオカミと七匹の子ヤギ』とやらは、ドッペルゲンガーがオリジナルにすり替わるのが目的ですか」

と、イレースが尋ねた。

王道だな。

自分よりも優れた自分の偽物が出てきて、そいつが本人に取って代わる。

成程。安っぽいホラー映画みたいなストーリーだ。

「そうだね。オオカミは子ヤギのフリをして騙し、子ヤギを食べてしまうことが目的だから」

と、シルナ。

『オオカミと七匹の子ヤギ』の原作に則ってる訳だな。一応。

それで、何だってドッペルゲンガーが出てくるようなことになるのだ。

前回の『白雪姫と七人の小人』は、子供の玩具だって言ってたが…。

「もしかして、『オオカミと七匹の子ヤギ』も玩具か?」

「うん…。『白雪姫と七人の小人』と同じ、童話シリーズの一つだね。全部、元々は子供の玩具として作られたものだ」

…あ、そう。

イーニシュフェルトの里の子供は、随分物騒な遊びをするもんだ。

うっかりドッペルゲンガーにすり替えられたら、どうするつもりだったんだ。

「封印してたんじゃなかったんですか?」

「してたはずなんだけど…。白雪姫と同じく、それほど厳重な封印じゃなかった。多分…何かのきっかけがあって、封印が解けてしまってんだと思う…」

またかよ。

今度は、一体誰が封印を解いたんだ?

「その童話シリーズっていうのは、白雪姫やオオカミ以外にもあるの?」

と、令月が聞いた。

「あるよ。色々と…」

「そっか。じゃあかぐや姫とか、大きなかぶとか、他にも色々出てくるかもね」

「…かぐや姫や大きなかぶがあった記憶はないけど…まぁ、他にも出てくる可能性はあるね」

大きなかぶ…。

皆で、超巨大なかぶを引っこ抜くんだろうか?

想像したくないな。
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