神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
ともあれ、今相手にしているのは『オオカミと七匹の子ヤギ』だ。

もし大きなかぶが現れたら、それはそのとき考えよう。

「校舎内に出没してた黒い影…。あれはやっぱり、シルナのドッペルゲンガーだったのかもな」

俺は、あのとき夜中に見た黒い影を思い出しながら言った。

ドッペルゲンガーシルナは、俺達に隠れて、ひそひそ行動してたみたいだし。

「うん…そうだろうね」

天音が相槌を打った。

そうと知っていれば、あれほど驚かなかったものを…。

…いや、ドッペルゲンガーが現れたら、それはそれで驚くけど。

しかし。

「学院長のドッペルゲンガーとは限らないでしょう。我々の偽物である可能性もあります」

イレースがそう言った。

俺達だと?

「だって、『オオカミと七匹の子ヤギ』と言うだけあって、ドッペルゲンガーは七人いるんでしょう?」

…あ。

そういえば、そんなこと言ってたな…。

他の六人はこんなに甘くない、とか…。

ってことは、ドッペルゲンガーシルナの他に。

あと六体、別の人間のドッペルゲンガーが、校舎内を彷徨いてるかもしれないってことだ。

覚悟はしていたけど…まだ出てくるのか…。

「…ドッペルゲンガーが出てきたとしても、断じて譲るなよ。偽物は全部消えてもらう」

どんなに本体より優れた偽物でも、そいつは偽物だ。

完璧でなくても、長所が少なくても、本物である方がずっと良い。

「じゃあ、しばらくは、そのどっぺるげんがー?とやらに警戒だね〜」

「うん。見つけたら捕まえておくよ」

「…無理すんなよ?」

最初に見つけたドッペルゲンガーシルナは、比較的大人しかったが。

他の六体のドッペルゲンガーも、そうとは限らない。

やれやれ。またややこしいことになってしまったものだ…。
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