神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
少女の叫び声を聞きつけたのは、俺だけではなかった。

「え、何々?どーしたの?」

「凄い叫び声だった」

蠟燭の灯るランタンを持った二人の元暗殺者が、少女達の叫び声を聞きつけ。

俺が飛び起きるより先に、現場に急行していた。

「嫌ぁぁぁ!助けてぇぇぇ!」

「え、何から?何かいたの?」

「きゃぁぁぁぁ!?」

漆黒の闇に溶けるような、黒装束を着た二人の元暗殺者が。

全く気配を感じさせず、あまりに唐突に目の前に現れたことにより。

少女達は、先程の黒い影の出現とは、また別の理由で叫び声をあげていた。

二人にしてみれば、立て続けに不審な人物が目の前に現れたのだ。

ただでさえ恐怖に怯えているときに、そんな目に遭えば、パニックを起こすのも無理はない。

しかし元暗殺者達は、何故二人が叫んでいるのか分からず、首を傾げる。

「どうしたの?何かいたの?」

何かいたの、じゃねぇ。

お前達の方こそ、何でいるんだ。

と、そのときにようやく、俺は現場に辿り着いた。

二人の少女にとってもそうだろうが。俺にとっても、目の前の光景が信じられなかった。

校舎内で叫び声が聞こえたから、何事かと慌てて駆けつけてみたら。

パジャマ姿の少女二人が、互いに互いを抱き抱えるようにして、廊下にへたり込んでおり。

そんな二人の様子を、イーニシュフェルト魔導学院の元暗殺者組がランタン片手に、不思議そうに眺めている。

な、何事…?

「お前達、何でこんなところにいるんだ?何があった?」

「…」

二人の少女に尋ねるも、二人共恐怖に引き攣った顔をして、一言も口が利けずにいた。

とにかく、二人を落ち着かせないと。

俺は廊下にしゃがんで、努めて優しい口調で言った。

「大丈夫だ。俺が誰か分かるか?羽久(はつね)・グラスフィアだ」

「ぐ…グラスフィア…先生…?」

「そうだよ」

ようやく、二人は目の前にいるのが自分達の教師だと気づいたようだ。

…ん?よく見たらこの二人、四年生の女子生徒じゃなかったか?

俺はシルナと違って、全ての生徒の顔と名前を覚えている訳じゃないから。正直、ちょっと自信がないが。

確か、四年生の生徒だったと記憶している。

「お前達、一体どうしたんだ?何があった?」

消灯時間はとっくに過ぎているのに、何故二人がこんなところにいるのか。

先程の叫び声は何だったのか。

聞きたいことは山ほどある。

「お…お化け…」

「は?」

片方の女子生徒が、震えながら廊下の先を指差した。

「い、今、そこに…お、お化けが…」

お…お化け?

俺は、女子生徒の指差す方向を向いたが。

「…」

そこには、何もいなかった。

ただ、真っ暗な空間が広がっているだけだった。
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