神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「お化け?お化けがいるの?」

「え、何処何処?」
 
元暗殺者組の令月(れいげつ)とすぐりは、お化けと聞いて興味津々だった。

さすが、怖いもの知らずの元『終日組』暗殺者。

…だが。

「お前らは、何でここにいるんだよ?」

と、俺は令月達に尋ねた。

「いつも通り、二人で夜間パトロールに来てたんだよ」

「そしたら悲鳴が聞こえたから、駆けつけた」

二人共、あっけらかんとして答えた。

何が夜間パトロールだ。

深夜徘徊をやめろと、あれほど口を酸っぱくして言ってるのに。

人の言うことを、まともに聞いた試しがない。

「鍵は!?校舎には鍵がかかってたはずだろ?」

「うん。開けたよ」

開けるな。

「シルナ分身は!?校舎の周りにうようよしてるはず…」

「金平糖を撒いたら、一斉に群がっていったよ」

あの役立たずめ。

成程、生徒が校舎内に侵入したのに、シルナ分身が気づかなかったのは、金平糖に夢中だったからなんだな?

本当に役立たずたな。

俺は、二人の女子生徒が指差した、廊下の先を見つめた。

そこには、何もいない。

多分、夜間に校舎に侵入するという緊張と恐怖のあまり、暗闇の中に影があると錯覚してしまったのだろう。

「大丈夫だ。何もいないよ」

俺は、生徒達を安心させるように言った。

しかし。

「で、でもさっき…確かに…」

「う、唸り声が聞こえて…」

二人共、恐怖に引き攣った顔でそう言った。

駄目だな。完全に怯え切ってしまっている。

「?何かいる?『八千歳』(やちとせ)」

「見つからないなー…。…『八千代』(やちよ)は?」

「こっちも、何もいない」

怖いもの知らずの令月とすぐりが、廊下の先をランタンで照らし。

きょろきょろと周囲を見渡し、女子生徒達が見た(?)お化けを探すも、何もいない。

な?何もいないんだよ。

「ほら。二人もああ言ってる。何もいないよ」

「…」

俺が繰り返しそう言うと、二人共黙り込んでいた。

相変わらず怯えてはいるが…少しは落ち着いたか?

「…それで、お前達は何でこんなところにいるんだ?」

俺は、改めて女子生徒達に尋ねた。

令月達は、いつもの深夜徘徊だとして。

この子達は、何でこんな時間にこんなところにいるのか。

この騒ぎは、一体何事なのか。

それを確かめなくては。
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