あなたに好きと言えるまで
いつも気づけば、教室にグランドに彼の姿を探している自分がいる、
この気持ちが何なのかを確かめたくて、私はひとり放課後グランドの外周を駆ける陸上部の練習をジッと眺めていた。
彼女は右手で庇を作り、遠く一点を凝視する。
「ん、あれ、、走り幅跳びをしてるのって君嶋くんじゃない?」
美智子は目がいいねー
陸上部じゃないという先入観から分からないかなと思ったけど、やっぱり見つけちゃうか、
走り幅跳び用の砂場はグランドの西側にあって、道路に植えられた街路樹と学校の垣根が、暮れかかる西陽を遮って影の中に埋もれていた。
それを今私達がいる東の校舎側から見ると、逆光の上に暗くて顔の判別も難しいはずなのに、彼女の鋭い目は私の意中の人を捉えていた。
勘のいい美智子にはもう誤魔化せない気がする。
「彼って美幸と同じ天文部じゃなかった?」
彼女の賢さは数学者の様に推論で先に答えを予想して、誘導尋問のごとく外濠を埋めながらいつも私の核心に迫る。
「そうだよ、私も知らなかったんだ」
そう、知らなかった、、
運動が苦手だから天文部に入ったとは思わないけど、走り幅跳びの練習をしている姿は、私がそれまでイメージしていた彼とはまったく違う。
前傾姿勢のスタートダッシュからぐんぐんスピードを増して、勢いよく右足で踏み切りそのまま宙を駆ける姿は、今まで私が見てきた男子の中でも一番に輝いて見えていた。
男の子が格好良いって、初めて思えた瞬間だった。
見ているだけで胸が騒つく不思議な感覚、私は今までこんなに胸がときめいた事がなかったのだ。
まるで空中の目に見えない橋の上を走っているみたい、、
「そういえば一学期の体力測定で、君嶋くんは走り幅跳びで学年4番目ぐらいに入っていたよ、それより上は陸上部の子ばかりだから意外だったのを覚えている」
「えっ、そうなの?」
美智子は記憶力もいい、
言われれば少し前に体育館へ続く渡り廊下に体力測定のランキングが張り出されていた、運動が苦手な私は特に興味も無かったから見ていない、二学期の途中から陸上部に入部するなんてとは思ったけど、それで彼は陸上部の顧問の先生にでも誘われたのだろうか。