激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜
藤乃さんと顔を合わせた翌日、旦那様がノックもせずに入ってきた。
「……っ旦那様?」
突然の訪問は驚いたが、なんだかとても嬉しそうだ。表情だけでわかる。これは何かいいことがあった時の顔……だ。
「すまない、突然来てしまって」
「あ、いえ。驚いただけで……大丈夫です」
まだ、ドキドキとしている。こんな驚くことないので本当びっくりした。
「今度は気をつけるよ。そうだ、話があったんだよ。美宙、よくやったな!」
「……え? 何をですか?」
「何をって、藤乃さんとの縁談だよ。このまま勧めたいと言ってくださったんだ」
「そうなんですね、よかったです。お役に立てたみたいで……」
「あぁ。そうだ。穂貴くんからね、日曜日にお会いしたいとも連絡があったよ。だから準備しておくように」
準備? お出かけ?
「旦那様、あの私外に着ていく服がないんです。以前のように、お嬢様のお下がりをいただけませんでしょうか? 昨日のような立派じゃない服でもいいんです、けど」
そう言うと、旦那様はポカンとして「あ、そうだな」と今思い出しましたと言うように呟いた。その日の夕方には、奈津子お嬢様からお下がりが数着届けられたのだった。