激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜
始まりは、珍しく来た使用人の言葉だった。
「……美宙さん、旦那様がいらっしゃいました」
「え?」
使用人にどうしてか聞く前に部屋に入ってくる中年の男性。それは、この家・如月家の旦那様だった。私の養父でもある。
「旦那様。何か、用でしょうか?」
「用がなくては来ない。お前に縁談が来ているんだ」
「縁談……」
「あぁ。やっと、お前が役に立てる日が来たんだ」
とても機嫌がいいと思ったのはこれだったのね。その日が来たのかとこの家に引き取られてからのことが思い出される。私、如月美宙は如月家の娘となっているが、養女だ。如月家とは血縁関係はない。
如月家は、繊維会社を経営している一族。家族構成としては、社長であり旦那様の如月寛治、その奥様である春子様、長女の奈津子お嬢様に、長男の歩さんがいる。跡取りもいるし、どうして私が引き取られることになったのかは旦那様と奥様が奈津子お嬢様を溺愛しているからだ。
引き取られてから言われたことなのだが『奈津子を嫁に出すのが嫌だった。だからお前は、この奈津子の代わり』らしい。それが私の役割であり、引き取られることになった最大の理由だ。