シークレット・ガーデン~英国紳士の甘い求愛と秘密~

16.太刀打ちできない



 やっぱり違う。色々違う。
 レオンに触れられると、莉緒は今まで知らなかったものを沢山引き出されてしまう。


「レオン、待って……」


 莉緒は大きなベッドの上で、既にくたくたになっていた。


 今しがた、レオンと一緒にシャワーを浴びて出てきたばかりだ。
 レオンと一緒に(・・・・・・・)

 つまりそう、ただシャワーを浴びてきた訳ではない。
 そういうこと(・・・・・・)に当然なった。


 入って来なよと言われてのこのこ向かったのが間違いだった。莉緒が服を全て脱ぎ去って身体を濡らしたタイミングで、一緒に入っていい? とレオンがやって来たのだが、あれはどう考えても確信犯だった。
 最初から訊いていれば莉緒が拒否すると分かっていて、そう簡単に逃げられない状況にしてから乗り込んで来たのだ。
 広い浴室で、鏡の前で、それはそれは淫らに責め立てられた。
 声が反響したり、明るい場所で素肌を晒すはめになったり、いくら羞恥心があっても足りないという状況。


 けれど、恋人になったばかり、蜜月の最中の二人である。
 それではい終わりとならないことは、莉緒だって承知していた。


「ん、レオン……」
 待ってと言ったからか、レオンは押し倒した莉緒にのしかかってはいるものの、踏み込んだことはしない。
 莉緒が良しと言うのを待つように、先ほどから軽いキスばかり繰り返す。
 頬に、おでこに、眦に。時に啄むように唇に。


 乱れた息を整えながらその甘い口づけを受け、莉緒はぼんやりと天井を眺める。
 柔らかい明りを落とす照明。広々とした空間。
 そう、広い。


 案内された部屋に入った瞬間から部屋の広さと調度品の格式の高さ、そしてバルコニーから湖を一望できるその景観の良さに絶句した。
 テンションが否応なしに上がるのと同時に、一体一泊いくらするのだろうと思ってしまったのは許して欲しい。莉緒一人なら経験することのないだろうクラスの部屋だったのだ。
 そしてさっきまでいた浴室。そんなリッチな部屋の浴室だ。二人で入っても当然まだ余裕があって、あんな色事展開にならなかったらゆっくり楽しみたかったところである。
 しっかり見る余裕はなかったが、泡風呂や、浴槽に浮かべるためのバラの花びらなんてものまで用意があった。ドラマや漫画なんかでしか見ない演出だ。


「リオ?」
「んあっ!?」


  唐突に首筋を甘噛みされて、反射的に身体が跳ねた。


「考え事できるくらいには余裕が戻ってきたね?」
 見透かされている。
「いや、あの、んんう」
 重ねられた唇の合間から舌が割り込んでくる。あっさり侵入を許して絡め取られてしまえば、言い訳の余地もなかった。
「あの、まって、明かり」
 それでも口づけの合間、何とか好きを狙って大切なことをお願いする。
「明かり消して」
「でも暗いところ苦手だよね?」
 なのに、さらりとその願いは流される。
 これだけ広ければ大丈夫だ、これ以上明るいところであれこれ見られるのは耐えられそうにない、そう言いたいのに不意に耳の中に舌を捩じ込まれて、莉緒の喉から甘い嬌声が零れた。
 そんなことをされたことが今まで一度もなかったが、これはダメだと瞬時に悟る。
「あ、あ、あっ、だめ、ぞわぞわするからっ」
 首の後ろをコントロールできない痺れが何度も去来する。
「あぁ、ここ、弱いんだ?」
「レオ、」
「弱いところって、要するにすっごく気持ち良くなれる可能性を秘めてるとこってことだよね」
「だ、だめだって、んー!」
 抗議してもやめてくれない。舌の先で器用に何度も擽られて、そのうちに莉緒は抵抗することを諦めた。
「は、はっ、んんぅ」


 レオンの手管の前では、いつだって莉緒の意思は散り散りになってしまう。
 だから白旗を揚げて、全てを受け入れるしかないのだ。


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