幻が見える彼女
そんなやりとりを微笑ましく思いながらも、妖である彼らが"人の子"というのだから橘くんはきっとそうなんだろうなと安心する。
そして、ホームルームはいつの間にか終わっており、橘くんの周りにはクラスメイト達が集まってくる。
愛想が良い彼はすぐにクラスに馴染めそうだ。
残ったコーラを飲み干し、席を立ち上がり廊下のゴミ箱を目指し歩く。
橘くんは、妖が見えないフリをしているのかな
先程の、私と妖にしか聞こえないように出した小さな声を思い出し確信する。
まあ、でも…
そっちの方がみんなと上手くやっていけるものね
コーラの空き缶をゴミ箱に放り投げ、何故か少し落ちた気分を晴らす。
「初音さん」
『?…橘くん、どうしたの』
苗字を呼ばれて振り向けば、クラスメイトに囲まれていたはずの彼が気まずそうにそこに立っていて、
「失礼を承知で聞くんだけど…人、だよな」
『…人だよ……ふふっ。
私も、橘くんのこと、人じゃないかもって少し思った』
そう2人で笑えば、良かったぁと力抜ける彼がさらに面白くて笑ってしまう。
みんなと話していたのに
私に話しかける時間は授業中でもあったのに
話しかけにきてくれたことが嬉しくて、少し心がじんわり温まった。
「同年代で見える人に会ったのは初めてだ。
よろしくな、これから」
『私は全年代で初めてだよ。
こちらこそ、よろしくね』