38年前に別れた君に伝えたいこと
3.恋の始まり
家に帰り、家族に悟られないように、
何食わぬ顔で自分の部屋に入った。
もし、バレンタインチョコを貰った事がバレでもしたら、冷やかされるに決まっている。
学生鞄から白河さんに貰った手紙とチョコを取り出して、机の上に並べる、薄いピンク色の封筒の表には"君嶋くんへ"の美しい文字。
手作りのチョコかな、
独り言を言いながら、椅子に座って手紙を開くと、
ほのかに花の香りが漂った。
香り付きの便箋なのだろうが花には詳しくない僕には、それが何の花の匂いなのかはわからない。
淡い浅葱色の便箋に、美しい文字が並んでいた。
なんて綺麗な字を書く子なんだろう、、女の子らしいと言うよりは、書道の先生が書いたお手本のような文字、それが僕の第一印象だった、
便箋には、彼女が僕の事をどれだけ好きか、思い付く限りの愛の言葉で綴られていた。
一年生の時からずっと好きだったこと、僕に彼女が出来て落ち込んだこと、それでも一途な想いが実ってこのチャンスが巡って来たことなど、読み手の僕を幸せな気分にさせてくれた。
恋は盲目か、、ちょっと色眼鏡で見過ぎじゃないかな、、
自分に好意を持ってくれる女の子に、悪い感情を抱く人は少ないと思う。
僕が彼女に単なる同級生以上の興味を持つようになったのは言うまでもない。
次の日の朝、
教室に入ろうとする僕の背中を、誰かが軽く叩いた。
振り返ると、そこには林さんがいて内緒話でもするかのように小声で話しかけてきた。
「君嶋くん、おはよ、手紙読んでくれた?」
「自分が書いたように言わないでもらえるかな」
「私が、あの手紙を添削したんだから、私が書いたようなものでしょ」
「えぇ〜マジかー、感動した僕が馬鹿だった」
「美幸ちゃんがね、私に相談してくれたの、ここはこれでいい、この文句は変かなって」
そういえば、林さんは勉強でもトップクラスだったことを思い出した。
「感動してくれたの? さすが私だね」
胸を張って自慢する林さんに、
「あー頭が痛い、、とにかく返事は直接彼女にするからさ、君はもう要らないよ」
片手を上げて、追い払うように左右に振った。