38年前に別れた君に伝えたいこと
この同じ空の下、彼女は一体何処にいるのだろうか。
彼女の消息が知りたくて、いろいろとネットで調べてみるけど、ある程度の有名人でない限り個人情報を公開する人はいない。
家の固定電話の番号も、既に会社名義に変わってしまっていた。携帯電話が普及した現在では固定電話の必要性もなくなり、解約する人も増えている。
実名登録が原則のSNS上には、彼女どころか同級生の名前すら見当たらなかった。
僕らの世代では、SNS自体使っている人が少ないからだろうか。
思い切って、実家付近の近所の家を訪ねてみる事にした。
昔からありそうな古い家を選んで、呼び鈴を押すと、30代ぐらいの女性が対応してくれた。
「突然すみません、ちょっとお伺いしたいんですが、昔この辺に白河さんというお宅があったと思うんですが」
「白河さん? ごめんなさい、私は嫁に来た人間だからちょっと分からないな、義母に聞いてみるから待ってもらえまか?」
彼女は、そういうと家の奥へと消えた。
暫くして、義母らしき人を伴って戻って来た。
「お義母さん、この方、白河さんの事が知りたいんだって、分かるかな?」
「はいはい、白河さん?
昔5軒ぐらい北に住んでみえたけど、15年ほど前だったか旦那さんの仕事の都合で引っ越さなきゃいけなくなって、いっそのこと土地を売却して郊外に移るって言ってみえた」
僕が知らなかっただけで、もうそんなに前から彼女の家は無かったみたいだ。
「それから二、三週間後に、娘さんが引っ越しの挨拶にみえたわ。娘さんはその時には既に結婚されていて、そこには住んでいなかったんだけど、
お母さんの体調が良くなかったみたいで、代わりに挨拶回りをされてた。
えっと、なんて名前だったかな?」
「美幸さんですか?」
「そうそう、美幸ちゃん。小さい時から賢くて、字が綺麗で、すごい良い子だった。
あの子は、今も元気にやってるんだろうか。
あなたは美幸ちゃんの知り合い?」
「はい、高校の同級生なんです」
「そう、◯◯高校の・・・
、、ひょっとして、美幸ちゃんが付き合ってた人?」
「私のことを知ってるんですか?」
「えぇ、美幸ちゃんのお母さんに聞いた事がある、
美幸が高校1年生の時から好きな子がいて、2年くらい付き合ってたんだけど、最近別れたみたいで、美幸もすごい落ち込んでるって言ってた。
優しくて、誠実で、美幸も大好きだったから、
あの子と一緒になれたら、きっと幸せになれたのにって、すごく残念がってたのを覚えてる。
そう、あなたが、、」
彼女のお母さんとは、挨拶程度の会話しか覚えがなかった、お母さんにそんなイメージを持たれていたなんて意外だった。
「すみません、、
でも、美幸さんは結婚されて幸せに成られたんですよね?」
「ええ、私もそれ以来会ってないから分からないけど、あの子ならきっと大丈夫だと思うよ」
良き人と巡り合い結婚していれば、きっと今彼女は幸せに暮らしているのだろう。
ところが、それを知っても尚僕の不安は解消されないでいた。僕たちが決めた“さよなら“は決して二人が望んだものではないからだろうか、、
言葉として"さよなら"を言った覚えもなかった、
互いが意地を張っていたのか、電話もかけないまま自然に消滅してしまった恋。
近所の人の話通りだとすれば、当時の僕は、やはり彼女を傷つけていたのか。