38年前に別れた君に伝えたいこと

彼女の視線はある一点を見つめたまま動かない、その視線の先にはカップルがいて仲良く手を繋いで寄り添っている。

それを見ていた彼女は、やがて俯いてしまった。

恥ずかしくて積極的になれないのか、、
僕に何かして欲しくても、それを言葉として表せない、
彼女のそんなところが可愛くて助けたくなる、

彼女の前にそっと手を差し延べてあげる、  

彼女は驚いた顔をして、、すぐに笑顔が溢れた。

「やだ、私が考えてた事バレちゃった?」

重ねられた手を優しく握りしめると、今度は恥ずかしくて俯いてしまった。

「やめる?」

彼女は首を左右に振って、小さな声で
「このままがいい」と呟いた。


そういえば、彼女とこんな会話を交わした事があった。

ある日、彼女が便箋に好きな歌の歌詞を書いて僕にくれた。
「聖子ちゃんの『赤いスイートピー』が好きなの?」

「うん、この歌詞に出てくる女の子って健気で、すっごく可愛いんだ。私みたいな気がして」

「そうなの? 
 そこまで気にして聞いた事はなかったな」

「相手の男の子は、圭くんみたいなんだよ」

「どういうとこが?」

「いいから、私達の事だと思って読んでみて」

確かに、歌に出てくる女の子は、恥ずかしがり屋で感情を言葉として表現できない彼女を連想させた。

「う〜ん、そう言われると美幸ちゃんみたいに思えてきた」

「だって圭くん、本当に手も繋いでくれないし、、」

昭和の終わりのあの時代、学生の恋愛は清純で(不純異性交遊は禁止)という言葉が声高に叫ばれていたし、大人に至っても街中で手を繋いだり腕を組んだりする男女は珍しかった。


他人に、いい歌だから聞いてみてって言われても、自分はそれほど感動しない時がある。
いい歌だと感じるのは、歌の主人公が自分と境遇が似ていて、重ね合わせて聞いてしまうからだろう。
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