38年前に別れた君に伝えたいこと

確かにそんな事があった。

僕は本当に人の顔を覚えるのが苦手で、ある程度回数を重ねないと名前と顔が一致しなかった。

「そんな事あったね、思い出したよ」

「その時から、圭くんを目で追うようになったんだよ」


一目惚れは抜きにして、
人を好きになる瞬間って感覚があるのだろうか?

勿論、きっかけは有るだろうけど、そのタイミングで恋にはならない気がしていた、ある出来事がきっかけで好意的に意識する様になる事で、やがて恋心が芽生えるんじゃないかって、



「圭くん、今日はありがとう」

「元気出たかな」

「うん、また明日から頑張れる気がする」

「受験が終わったら、また何処かに行こうね」

「私、海がいいな」

「海水浴? 美幸ちゃんの水着姿かぁ、見てみたいな」

「残念でした、私はね、海に向かって叫びたいんだ」

「何を?」

彼女は、ニッコリ微笑んで、
「やっぱり、わたしは圭くんが大好き‼︎って」

「うーん、嬉しいけど、誰かに聞かれたらちょっと恥ずかしいかな」

「誰も居なかったらに決まってるじゃない、私だって恥ずかしくて言えないよ」

そうだよね、そんな彼女は想像できない。


「もう少し元気をあげよっか?」

「えっ? なに」

彼女を包み込むように優しく抱きしめた。

「・・・圭くん、まだ足りないよ」

抱きしめた腕に力を込めて、

「これくらい?」

「まぁだ」


帰り道、
2人で手を繋いで、駅まで歩いた。

「圭くんと手を繋いでいるとね、私の不安な気持ちが和らぐの、、
もう他に何も要らないって思えるぐらいに、」


出来る事なら、ずっとそばに居てあげたい、、

笑顔が途切れることもなく嬉しそうにはしゃぐ彼女が、今まで以上に愛おしく感じられた。

< 22 / 118 >

この作品をシェア

pagetop