38年前に別れた君に伝えたいこと
確かにそんな事があった。
僕は本当に人の顔を覚えるのが苦手で、ある程度回数を重ねないと名前と顔が一致しなかった。
「そんな事あったね、思い出したよ」
「その時から、圭くんを目で追うようになったんだよ」
一目惚れは抜きにして、
人を好きになる瞬間って感覚があるのだろうか?
勿論、きっかけは有るだろうけど、そのタイミングで恋にはならない気がしていた、ある出来事がきっかけで好意的に意識する様になる事で、やがて恋心が芽生えるんじゃないかって、
「圭くん、今日はありがとう」
「元気出たかな」
「うん、また明日から頑張れる気がする」
「受験が終わったら、また何処かに行こうね」
「私、海がいいな」
「海水浴? 美幸ちゃんの水着姿かぁ、見てみたいな」
「残念でした、私はね、海に向かって叫びたいんだ」
「何を?」
彼女は、ニッコリ微笑んで、
「やっぱり、わたしは圭くんが大好き‼︎って」
「うーん、嬉しいけど、誰かに聞かれたらちょっと恥ずかしいかな」
「誰も居なかったらに決まってるじゃない、私だって恥ずかしくて言えないよ」
そうだよね、そんな彼女は想像できない。
「もう少し元気をあげよっか?」
「えっ? なに」
彼女を包み込むように優しく抱きしめた。
「・・・圭くん、まだ足りないよ」
抱きしめた腕に力を込めて、
「これくらい?」
「まぁだ」
帰り道、
2人で手を繋いで、駅まで歩いた。
「圭くんと手を繋いでいるとね、私の不安な気持ちが和らぐの、、
もう他に何も要らないって思えるぐらいに、」
出来る事なら、ずっとそばに居てあげたい、、
笑顔が途切れることもなく嬉しそうにはしゃぐ彼女が、今まで以上に愛おしく感じられた。