38年前に別れた君に伝えたいこと

近くの公園で写真を撮ることにした。
名古屋の中心部に位置するこの公園は、市内でも有名な桜の名所で、毎年多くの花見客で賑わう。

花見が終わって新緑が芽吹くこの季節、園内は散歩やジョギングする人がいるだけで、静寂を取り戻していた。

「美幸ちゃん、この辺でいい?」

木々の開けた場所に奏楽堂があって、その建物を背景に写真を撮ることにした。

「圭くん、可愛いく撮ってね」
互いに何枚か撮りあった後、2人の写真をセルフタイマーで撮影する。

残念ながらスマホみたいにすぐに確認することができない、綺麗に撮れているかどうかは、現像するまでわからなかった。

写真を撮り終わったあと、池の畔のベンチに腰掛けて、ある事ない事を語らう、彼女は僕の肩に頭をもたげて聞いている。

「圭くん、恋は微分、愛は積分って知ってる?」

「聞いた事はあるけど、微分、積分がよくわからないから、僕には説明できません」

「圭くんは理系だよね」

「そうですけど、それが何か?」

「ふーん、まあいいか、、
微分は瞬間的、積分はその瞬間的なものを積み重ねたものだから、これを恋愛に例えると、
恋は、一目惚れみたいに瞬間的に好きになるでしょ、でも愛はその積み重ねだから、私達は今その途上にあるんだよね、嬉しい事もあれば悲しいこともあるけど、その一つ一つの積み重ねが大切なの」


園内は鳥の囀りが聞こえるだけで、人の気配も感じられない。
2人だけの空間に、時がゆっくりと流れていた。


肩に置いた手を何気に動かして、彼女の髪を指先で弄んでいると、

突然、彼女が意外な事を話し出した。

「圭くん、ちゃん付けで呼ぶのやめて欲しいんだけど」
「えっ、なんで?」
「なんかもう子供っぽくて、恥ずかしいかな」

「そうなの? じゃあ、美幸さんはどう?」
「それはそれで、他人行儀みたいで嫌です」

僕は、逆に彼女や奥さんのことを呼び捨てにする男性が嫌いだった、
『こいつは俺のもの』だっていう独占欲の現れのような気がしてしまう。
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