38年前に別れた君に伝えたいこと

特に亭主関白の男性が奥さんを呼び捨てにしているのを見ると、その人の個を否定している様にさえ感じてしまう。

「みんな呼び捨てにしてるの?」

「うん、ちゃん付けの人もいるけど、名前を略してるから余り違和感はないよ、でも美幸の場合は美っちゃんでも、幸ちゃんでも嫌かな、
それに圭くんに、美幸って呼び捨てにされると、私は圭くんのものだからねって気がして嬉しい」

彼女の言葉が意外だった。

今までの僕の考え方は的外れだったのか。
それとも、人によって受け止め方が違うだけなのか。

「分かったよ、美幸がそうして欲しいならそうするね」

「うん、そうそう、その調子、なんか嬉しい」

ハニカム彼女を横目に、何故か納得できない自分がいた。


最近、身体の異変を感じていた。たまに息苦しく、身体がだるい。

「圭ちゃん、病院いこ」

相変わらず妻は鋭い。
僕の日々の変化を敏感に察知する。

「麻由ちゃん、僕は大丈夫だから、そんなに心配しなくていいよ」

「嘘だ! 圭ちゃん病院嫌いなの知ってるから、、お願いだから、、病院いこ」

妻は今にも泣き出しそうな顔をして訴えた。
僕は彼女のそんな顔に弱い、、

「わかったから、麻由ちゃんの言う通りにするから、もうそんな顔しないで」

翌日、休みを取って2人で病院に出掛けた。担当の医師に精密検査を勧められた。肺に影が有るらしい。
妻は、僕の横で涙に暮れていた。

「麻由ちゃん、まだ変な病気って決まった訳じゃないから」

「圭ちゃん、私より先に死なないって約束したのに!」

泣きながら妻が怒る、

「大丈夫だから、麻由ちゃんを置いて先に逝かないから」

最愛の妻を悲しませたくなかった。でも、世の中には、どんなに頑張っても自分の力では抗うことができないものがある。病気もその一つだろう。

精密検査の結果、肺に癌が見つかった・・・。
ステージ4末期癌、余命3ヶ月と診断された。

妻の顔をまともに見ることができない。
妻は、僕の横で泣き疲れて眠ってしまった。

< 33 / 118 >

この作品をシェア

pagetop