38年前に別れた君に伝えたいこと
特に亭主関白の男性が奥さんを呼び捨てにしているのを見ると、その人の個を否定している様にさえ感じてしまう。
「みんな呼び捨てにしてるの?」
「うん、ちゃん付けの人もいるけど、名前を略してるから余り違和感はないよ、でも美幸の場合は美っちゃんでも、幸ちゃんでも嫌かな、
それに圭くんに、美幸って呼び捨てにされると、私は圭くんのものだからねって気がして嬉しい」
彼女の言葉が意外だった。
今までの僕の考え方は的外れだったのか。
それとも、人によって受け止め方が違うだけなのか。
「分かったよ、美幸がそうして欲しいならそうするね」
「うん、そうそう、その調子、なんか嬉しい」
ハニカム彼女を横目に、何故か納得できない自分がいた。
最近、身体の異変を感じていた。たまに息苦しく、身体がだるい。
「圭ちゃん、病院いこ」
相変わらず妻は鋭い。
僕の日々の変化を敏感に察知する。
「麻由ちゃん、僕は大丈夫だから、そんなに心配しなくていいよ」
「嘘だ! 圭ちゃん病院嫌いなの知ってるから、、お願いだから、、病院いこ」
妻は今にも泣き出しそうな顔をして訴えた。
僕は彼女のそんな顔に弱い、、
「わかったから、麻由ちゃんの言う通りにするから、もうそんな顔しないで」
翌日、休みを取って2人で病院に出掛けた。担当の医師に精密検査を勧められた。肺に影が有るらしい。
妻は、僕の横で涙に暮れていた。
「麻由ちゃん、まだ変な病気って決まった訳じゃないから」
「圭ちゃん、私より先に死なないって約束したのに!」
泣きながら妻が怒る、
「大丈夫だから、麻由ちゃんを置いて先に逝かないから」
最愛の妻を悲しませたくなかった。でも、世の中には、どんなに頑張っても自分の力では抗うことができないものがある。病気もその一つだろう。
精密検査の結果、肺に癌が見つかった・・・。
ステージ4末期癌、余命3ヶ月と診断された。
妻の顔をまともに見ることができない。
妻は、僕の横で泣き疲れて眠ってしまった。