38年前に別れた君に伝えたいこと
最寄り駅に着くと、そこからは大学行きの専用バスが出ていた。
「いつもこんな感じで通学してるんだね」
「うん、1時間位かな、受ける講義によって通学時間にばらつきがあるから、電車もバスもそんなに混んでないよ」
大学の正門前にある停留所でバスを降りると
構内は、学生や見物客で賑わっていた。
所々に人集りができ、自分達の催し物に人を呼び込む学生達や、さながら戦場のように慌ただしく人が行き交う場所もある。模擬店で何か焼いているのか香ばしい匂いが風に流れ鼻をくすぐる。
「圭くん、先にゼミの仲間に挨拶したいんだけど良いよね」
「僕は右も左も分からないおのぼりさんだから、美幸について行くだけだよ」
彼女は僕の手を引いて、人混み中ををすり抜けて行く。
校舎の行き詰まった場所に、ゼミの仲間はいた。
「白河さん」「美幸ちゃん、こっちだよ」
手を振りながらゼミの仲間達が彼女を呼んだ、
「美幸ちゃんの彼氏?」
「うん、紹介するね。君嶋 圭悟くん」
こういうのは苦手だ、
「初めまして、君嶋です。
いつも美幸がお世話になってます」
「ははっ 美幸ちゃんの保護者みたいだね」
「写真より、実物の方がカッコいいじゃない」
友達に言われて嬉しそうな彼女を見ても、前みたいにあまり嬉しく感じないのは何故だろうか。
僕とは住む世界が違う大人びた人達に囲まれた彼女、やがて彼女も僕の世界から居なくなりそうな、そんな不安に襲われていた。
ゼミ長らしき人が彼女に声を掛けた、
「白河さん、今日は僕達で十分だから彼氏と楽しんでおいで」
「岸さん、ありがとう。頑張って下さい」
彼女はそういうと、僕の手を取ってその場を後にした。
「圭くん、皆んな良い人だから心配しなくていいよ」
「誰も彼も凄く大人に見えるね」
「うん、年齢から言えば、三つ四つ年上の人もいるからね。入学するのに年齢は関係ないから、おじさん、おばさんみたいな人もいるよ」
そんな話を聞いたことがあった。
学生時代に何らかの理由でドロップアウトした人や、経済的理由で進学出来なかった人が、歳を取ってから大学でもう一度学びたいと思うらしい。
「圭くん、講堂でバンドの演奏やってるから見に行こ」
「いいよ、何処へでもついてくよ」
講堂は満員状態だった、当然空いてる席はなく、立ち見の人もいる。
「圭くん、少しだけだから此処でいいよね」
講堂の入り口付近の壁にもたれて見ることにした。