38年前に別れた君に伝えたいこと


僕の手を片時も離さない妻、
もし離してしまえば、永遠の別れが訪れる、

そんな不安に苛まされているのだろうか。


20代後半、上の子が生まれたぐらいだったか、サラリーマンでは、この先たいした出世は見込めないと悟り、脱サラして職人の道を選んだ。

それ以来、休みも惜しんで働き続けた僕の手は、いつしか関節も曲がり傷痕だらけになってしまった。


「圭ちゃん、昔は女の子みたいな綺麗な手をしてたのに、、」

妻は、豆だらけの手を愛おしそうに撫でながら、僕の手に向かって話しかけた、

「よく頑張ったね、、
 家族のために一生懸命働いてくれた」

妻の瞳から涙がこぼれ落ちる。


息苦しさから、呼吸が荒くなった。

「圭ちゃん、苦しい? 看護師さん呼ぶ?」

「いや、まだ大丈夫だよ」


気丈にも、余命宣告を受けたあの日から、妻は僕の前で涙を見せなくなった。

彼女が悲しんでいる姿を、
僕が一番見たくないことを知ってるから。

そんな妻が再び見せた涙、


「麻由ちゃんが倒れちゃうから、子供に変わってもらったら?」

「私は大丈夫だよ、圭ちゃんから離れたくない」


強がるくせに、泣き虫で、寂しがり屋の妻

僕が居なくなったら、彼女はどうやって生きていくのだろうか。

生活に困らないだけの蓄えはある、僕の生命保険も降りるはずだ。

だけど、

そこには彼女が一番必要としている僕はいない。

交差点で立ち止まったまま、歩き出せない彼女の姿が瞼に浮かんで離れない、


そうだ、、
「麻由ちゃん、そこの引き出しに手紙が入ってるから」

「なに?」

妻はサイドテーブルの引き出しから自分宛ての手紙を取り出した。
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