38年前に別れた君に伝えたいこと
「あの本は、お母さんただ一人に読んでもらえれば良かったんだね、その為だけに出版された気がする。
一応物語としての体裁は取ってるけど、極めて強いメッセージ性を感じるんだ。お母さん、もし君嶋さんが生きてたら連絡した?」
「連絡したい気持ちはあると思う、でも圭くんにも奥さんや子供がいるだろうし、電話するのはやっぱり躊躇うわ」
「当然だよね、それでね、ふと思ったんだけど、
君嶋さんの奥さんはあの本を読んでどう感じたんだろうか」
「えっ、そんなの考えた事もなかったわ、
だって、本人はもう居ないんだから、本を出すには奥さんの了解がいるんじゃないの?」
「普通はそうなんだけど、ネットだと結構曖昧なとこがあるんだよね、誰でも簡単に小説を発表できる半面、出版の権利は向こうにあったりして」
「じゃあ、奥さんが望まずして本が出された可能性もあるって事?」
「うん、もしあの本を奥さんが見たら、お母さんの事どう思うだろうか」
「私が奥さんの立場だったら許せないかもしれないし、不倫を疑うかもしれない」
それは嫌だ、私のせいで彼が愛した人を傷つけたくない。
奥さんの誤解を解いて、謝らないといけない。
「美咲、奥さんに会ってみようかなぁ」
「う〜ん、それはどうかな? お母さん嫌な思いするかもしれないよ」
「彼が、私にくれたメッセージのために、最愛の奥さんを苦しめるなんて事あってはならないよ」
それに奥さんに会えば、私と別れてからの圭くんの人生が聞けるかもしれない。
もっと彼の事を知りたい願望が見え隠れしていた、
少し、ズルい自分がいる。