38年前に別れた君に伝えたいこと
「高瀬さん、彼の遺品の中には貴女に関する物は何も無かったわ。たぶん結婚した時に、過去の手紙やプレゼントはすべて処分してくれたんだと思う。
私、やきもち妬きなんです。だから後で、もし私がそんなのを見つけでもしたら大変な事になるから。
だから、38年も前の彼の記憶だけでは、あそこまで書けないんじゃないかって、彼の記憶の中の貴女は18歳のままで止まっていて、還暦近い男がまるで娘を見るような視点で書いた夢物語ではないかと思ったんです」
確かに、今のおばちゃんになった私をイメージしたら、とてもあんな物語は書けないと思う。
「あっ、そうだ思い出したわ、
ちょっと待ってて貰えますか?」
奥さんはそう言うと席を立って部屋を出て行った。
圭くんは、この家であんな綺麗な奥さんと、一体どんな暮らしをしてたんだろう。余りにも過ぎ去った年月が長すぎて、想像も出来ない。
彼が愛した女性に、私は少なからず嫉妬していた。
暫くして席に戻った彼女の手には、折り畳まれた便箋が一通、それを目にした私は時を遡り思い出していた。
懐かしい、、
高校生の時に流行った手紙の折り方だ。
友達や恋人と手紙でやり取りしていたあの頃、色々な手紙の折り方があった、
友達が私に、新しい折り方で手紙をくれると、今度は私がその折り方を真似て別の友達に出していた。あっという間に新しい折り方は、新しく無くなってしまったんだよね。
「私もよく、こうやって手紙を折ったわ。
だから、これを見つけた時、私が彼にあげたものだと思ったんだけど、、」
テーブルの上に広げられた便箋を見て、私は言葉を失った。
私の字だ‼︎
間違いない、私の字で『赤いスイートピー』の歌詞が書いてある。
どうして、こんなものが、、
「高瀬さん、これは貴女が書いたものじゃないかしら」
思い出した、
内気で感情が上手く言葉で表現出来なかった私は、思いを歌の歌詞にのせて彼にアピールしていた。
彼に私の気持ちを伝えたかった、手を繋いで欲しかった、
同じ青春を、、二人で歩きたかったんだ。