38年前に別れた君に伝えたいこと
「は、はい、そうです。憶えてます」
「やっぱりね、小説に貴女の字が綺麗だって書いてあったから、それに『赤いスイートピー』のエピソードもあったしね、彼の周りにこんな綺麗な字を書く人を、私は知らないから、、何処にあったと思う?」
「わかりません、何処ですか?」
「高校の卒業アルバムの中、彼と貴女が一緒に写っている部活写真のページ
に、大切に挟んであったわ」
えっ
思いがけず涙が溢れてしまった、、
なんで、なんで、、
圭くんは、なんでこんな物を大切に取って置いてくれたんだろう。
「彼にしたら、貴女を思い出せるものは、もう何も残ってないから、私には分からないと思って、これだけは捨てずに残して置いたんだと思う」
そうだった、3年のクラスは違ってたから卒業アルバムの中で唯一、圭くんと私が一緒に写っている部活の写真、彼と別れてからも、私も悲しい事があると彼を思い出して何度か見た気がする。
「いくら夫婦でも相方の卒業アルバムなんて普通は見ないからね、今まで気づかなかった。彼の遺品を整理してる時に偶然見つけたの。少し嫉妬したけど、誰にだって忘れられない大切な人が居ても不思議じゃないと思うから」
最愛の夫が他の女の事を思っていたっていうのに、何故奥さんはそれを許せるのだろうか、
「奥さんは、、私が憎くないんですか?
私だったらそんな便箋破り捨てて、わざわざ相手に話す事などしないと思います」
私の言葉に反論もせず、彼女は優しい目で微笑みを浮かべると、
「高瀬さん、私は今でも彼が大好きだから、彼の望みを叶えてあげたいんです」
彼の望み?
「君嶋くんが望んでいた事って何ですか?」
「小説では、貴女との思い出を中心に、何故別れてしまったのか、当時の彼の揺れる気持ちが描かれていたけど、あれでは貴女には懐かしいだけで何も伝わらないんじゃないかしら、
彼が貴女に本当に伝えたかった事は、別にある気がする。それを彼の代わりに貴女に伝えたいの」