38年前に別れた君に伝えたいこと
scene.2
それは二週間前のこと、
高校時代の旧友から電話をもらったことがきっかけで、長い間止まったままになっていた運命の歯車が再び動き出した。
「美幸久しぶり、元気にやってる?
同窓会以来じゃない?」
それだって、もう10年近くも前の話だ、高校時代の友達は互いの生活にかまけて殆どが年賀状だけの付き合いになってしまっていたし、喪中ハガキが来るたびに一人欠け二人欠けって、年々少なくなっていく。
「何の変化もない毎日だよ」
一人息子が大きくなって、自分が小さくなったぐらいかな」
「それはそれで、きっと幸せなんだよ」
「平凡な日々が幸せなんて、なんか寂しいよね」
「波瀾万丈の人生が良かったの? それも大変だよ」
確かに、平穏な日々はそれに気づかなくても幸せなんだろう、だけど気分が沈んでいる時の何の変化もない暮らしは退屈で憂鬱に感じていた。
人はわがままだ、平凡な時は変化を求め、それに疲れるとまた平凡を求めてしまう。
「あーなんか、昔みたいに胸がキュンキュンしたい!
韓国ドラマみたいな素敵な出会いはないかなー」
「はははっ、歳を考えた方がいいよ、だいたい美幸には旦那がいるじゃない」
「いるかいないか分からないような人だけどね」
「まあいいや、今日電話したのはね、美幸に聞きたい事があったんだ、
君嶋くんて覚えてる?」
「わざわざ確認するまでもないよ、元カレなんだから」
「下の名前って"圭悟"だったっけ?」
忘れかけてた、懐かしい響きだった、
「そう、君嶋圭悟、彼がどうかしたの?」
「それがね、このまえ本屋さんで彼が書いたらしい本を偶然見つけたんだ」
「えっ、本? 君嶋くんが書いた?
彼にそんな才能あったっけ、だいたい理系だったし」
まぁ理系の人が文章を書くのが苦手とは限らないけど、彼にはイメージできない、
「私と同じで星が好きだったから、SFとかファンタジーなら書けそうかな」