再会から始まる両片思い〜救命士の彼は彼女の心をつかまえたい〜
はぁ……と何度ため息をついただろうか。
すると外で騒ぐ音が聞こえてきた。
悲鳴のような声だが、なんと言ってるのかわからない。
店員が外へ出て行ったが、慌てて戻ってきて救急車を呼ぼうとしていた。

『救急車お願いします! 早く来て! 子供が溺れて息がないんです』

電話の声を聞き、私は慌てて外へ飛び出した。
母親らしき人に子供は呼びかけられ、体を揺すられるが反応はなさそう。慌てていて何も応急処置をしていない。

「お母さん。私は看護師です。お子さんの状況を見せてください」

ぎゅっと抱きしめていた手が緩むのを見て、私はすぐに子供を横に寝かせた。
脈を見るが確認できない。呼吸も停止している。
私はすぐに蘇生を開始した。
人工呼吸と心臓マッサージを始めると、横で母親の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

「AEDお願いします!」

私は先ほどまで母親が叫んでいた子供の名前を呼ぶ。

「まーくん、がんばれ。がんばれ」

再び人工呼吸をするとケホっと水を吐き出した。私は手を止め、子供の顔を横に向けると誤嚥しないように吐き出させた。
頸動脈も弱いが触れ始めた。

「まーくん、がんばろうね」

手近にあったタオルで子供の体を拭き、保温を始めた。
唇の色は真っ青で、まだ顔面も蒼白だ。
何度も何度も声をかけ、救急車が来るのを待つ。周りの人が温かい毛布を持ってきてくれ、それにくるんであげると幾分体温が上がってきたように思った。

「まーくん、もうすぐ救急車が来るからね」

励まし続け10分は経っただろうか。ようやくサイレンの音が聞こえてきた。
救急隊が到着すると子供と母親は救急車の中に乗り込み出発の準備をしていた。私は簡単に蘇生の経緯を伝えると、地元の救急病院がすぐに受け入れが決まり出発していった。

よかった、と安堵しているとちょうど夏目さんが湖から上がってきた。

「どうしたんだ? 救急車が見えて驚いたよ」

すると店員の女の子がすぐに反応した。

「子供が溺れてたんです。でもお客さんがすぐに助けてくれて……。本当に凄かったんです」

興奮気味に話す彼女の目はキラキラして私を見つめていた。

「いえ、当然のことをしたまでですから」

「そんなことないです。みんなオロオロしてどうしたらいいか分からなかったのに。お客さんが来てくれなければ私たちは救急車を待つことしかできなかったです」

夏目さんは彼女の説明を聞くと頷いていた。そして私の頭に手をポンと乗せると「頑張ったな」と言ってくれた。
その声に私も力が抜けた。
何度立ち会っても怖いものは怖い。ましてや病院のように何も揃っていないところで当たるのは正直見なかったことにして逃げたいくらい怖い。でもあのままあの子が母親に抱きしめられたままだと助かる可能性があるのに救えないのはわかっていた。だから行動に起こした。
でもそんな怖さを理解してくれる彼の優しさを手の温もりから感じ、ホッとさせられた。
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