再会から始まる両片思い〜救命士の彼は彼女の心をつかまえたい〜
「のどかちゃん、洋服濡れてる。ちょっと透けてる、かな」

夏目さんの声にハッとした。
濡れてる子供を処置していたので私の服も濡れてしまっていた。白のシャツが濡れ、中に着ていたキャミソールが丸見えだ。見せてもいいキャミソールだとはいえ、やはり恥ずかしい。
夏目さんはデッキに置いていったパーカーを私に着せてくれた。

「シャツは脱いでくるか?」

「そ、そうですね。このまま着ていたらパーカーも濡らしてしまいますね」

「それはいいんだが、濡れたものを着ていると風邪をひくからな」

私はトイレに行き、シャツを脱ぐとキャミソールの上から彼のパーカーを羽織らせてもらった。
店内に戻ると彼も着替えを済ませ、ちょうど出てきたところだった。

「なんだか可愛い感じになっちゃってるな」

確かに彼の大きなパーカーは私が着ると袖も二織りするくらいに長く、丈もお尻の下まで隠れている。お父さんの服を借りた子供みたいだ。

「夏目さんは寒くない?」

長袖のTシャツ1枚の彼を見て尋ねた。

「あぁ。大丈夫だ」

そう言うと、また手をポンと頭の上に置いた。

「さ、一杯飲んでから帰ろうか」

彼は私が座っていた席へ行くと向かいに腰をかけた。
なんであそこが私の席だと分かったのだろうか。ウッドデッキにいた時は手を振ったりしていたが店内は先ほどのように湖畔からは見えないと思ったのに。

「ホットコーヒーとチーズケーキ。のどかちゃんは?」

「じゃあ私はもう1杯カフェオレを。私にもチーズケーキをお願いします」

店員は微笑みながら厨房へ戻っていった。
槙野さんが注文の品を持ってきてくれるが、先ほどの話を聞いたのか少しテンションが高い。

「佐伯さん、凄かったみたいですね」

「いえ。私にできることをしただけですから」

「謙虚だなぁ。そういう子好きなんだよね。夏目くんとは友達なんでしょ?佐伯さんは彼氏いるの?」

返事を返す間を与えず、次々と話しかけてくる。

「看護師さんなんですよね? 何科? いいよね、看護師さんってなんだか違う世界の人みたいで尊敬しちゃうよ」

とてもフレンドリーな槙野さんに悪気はなく、とにかく思ったことがポンポンと口から出てしまうタイプのように感じた。
返答に困っていると、夏目さんが横から原野さんを宥めてくれる。

「おい、そのくらいにしろよ。のどかちゃんが困ってるだろ。誠のいいところでもあり、悪いところでもあるぞ」

「はいはい。でもまたいつでもここに遊びにきてね。夏目くんとじゃなくてもいいから」

私が苦笑いを浮かべると、満面の笑顔で離れていった。

「ごめんな。いいやつなんだけど思うがままになんでも口にしてしまうんだ」

「いえ。なんでも口にできるって隠し事ができないってことですよね? そういう人は好きですよ。でも今は言わないで、と思う時もあるんですけどね」

笑いながら答えると夏目さんも頷いていた。
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