再会から始まる両片思い〜救命士の彼は彼女の心をつかまえたい〜
「で、断ったんでしょう?」

「はい。でも3回目なんです。断ったのは」

「え?!」

それは考えただけで怖い。
ストーカーになっているんじゃ……。

「大丈夫なの?」

「今のところは。でもまだ諦めていなさそうなんです。私が今フリーだと分かっているのか3回目は結構粘られてしまって」

「大丈夫じゃないよ。家とか知られてないの?」

「多分……。毎回日勤の後に見かけるんです。シフトの仕事だと見つかりにくくて助かりますね。それに出口を変えて出たりしてるので家まではバレてないはずです」

「当たりをつけて病院に来てるってことなのね。それにしてもちょっと怖いわね」

時々こういう話は耳にするが、身近な紗衣ちゃんに起こっていると知ると心配でたまらない。それに恐怖を覚える。どうしたらいいのだろうか。

「この前忘年会を断る時に加藤くんにちょっとだけこの話をしたんです。そしたら時々仕事帰りに迎えにきてくれて……。もちろん彼にも仕事があるので毎日じゃないけど、私が日勤の日は彼が明けや休みだと家まで送ってもらったりしてて……」

「え? それって」

紗衣ちゃんはコクリと頷いた。

「もともと年も近いから話しやすかったんです。気さくだし、気を遣わないで済むっていうか。でもこうやって私の心配をしてくれて、疲れているはずなのに家に送るだけのために来れる日には来てくれる。なんだかすごく安心しちゃって……」

そう話す紗衣ちゃんの顔は気のせいか少し赤くなっている。少し俯き気味に話す彼女の顔はどこか優しくて、いつもの元気な顔ではなく、女の子の顔になっていた。

「加藤くん優しいもんね。よく気がつくし、いい人だと思うわ」

「そうですよね。なんだかまめな彼の姿に惹かれてるのを最近自覚したんです」

加藤くんなら紗衣ちゃんを安心して任せられそう、と勝手に想像を膨らませてしまう。

「でも今彼に告白したらなんて思われるか……。都合良すぎませんか?」

「そんなことないと思うな。みんなで集まって、加藤くんのいいところたくさん見てきたでしょ?」

紗衣ちゃんは頷く。

「ならいつ伝えるかは紗衣ちゃん次第だよ。助けてもらってるから好きなんじゃないって伝えたら加藤くんだって分かってくれるよ」

「はい。頑張ってみます」

暗くなっていた話が反対に明るい話題になり、その後も楽しく食事をすることができた。
そろそろ帰ろうか、という時間になって紗衣ちゃんのスマホに加藤くんからメッセージが来ていた。
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