再会から始まる両片思い〜救命士の彼は彼女の心をつかまえたい〜
「あ、加藤くんが迎えに来てくれるって」
「え?」
「今日は当直ではなくて日勤なんですって。救命救急の市民講座をするって言ってました」
「救急車に乗ってるだけじゃないんだよね。改めて感服するわ」
そんなことを思っていると紗衣ちゃんはメッセージを返していた。
「みんな近くにいるっぽいです。合流するって」
「え?!」
会いたくないのに、そんな私の気持ちとは関係なく話が進んでしまう。
そして彼らは本当に近くにいたらしく、10分で到着した。
「お疲れ〜」
3人はスーツ姿で、いつもの私服とも、青い制服とも違う。でも何故か会社員には見えないがたいの良さがまたアンバランスでなんとも言えない。紗衣ちゃんもそう思ったのか笑っていた。
「スーツ! なかなか似合ってますね」
笑いながら言っていて気持ちがこもっていない。彼らもそう感じたのか、不貞腐れるように私たちのテーブルに腰掛けながら不満げだった。
「出勤はこの姿なんだよ。どうせ着替えるのにな」
「明らかに体鍛えてる3人だから会社員でないのは一目で分かるわー。私服や制服の方がやっぱり似合う」
私も同意するが、隣に座った夏目さんが気になり気もそぞろだ。紗衣ちゃんの隣には加藤くん、お誕生日席に橋口くんが座っていた。
いつも決まっていたわけじゃないが、思い出してみると毎回この並びが常になっていた。
「でもふたりは制服も私服もどっちも可愛いよね」
「白衣は美化されますからね」
「そんなことないよ」
そんな軽口を聞きながら3人は注文し、急いで食べ始めた。
そんなに慌てて食べなくても、と思ったが、私たちが帰ろうとしていたのを知っているので急いで済まそうとしてくれていたのだ。
「明日夜勤だからそんなに慌てなくて大丈夫ですよ。紗衣ちゃんは休みだよね?」
「はい。だから慌てなくても大丈夫です」
それを聞くと幾分スピードが落ちた。
けれどあまり遅くならないうちに、と解散になった。
加藤くんは自然と紗衣ちゃんを送る形になっていて、なんだかすでに付き合っているような雰囲気だった。付き合うのも時間の問題だなと感じるくらいふたりの親密さを肌で感じ、なんだか胸の奥が温かくなった。
「お疲れ〜」
ここからみんな分かれていくものだと思っていたら、夏目さんが私を送ると言い出した。
驚いていると、橋口くんはサラッと「お疲れ様です、また」と手を振り帰って行ってしまった。
あ……と思った瞬間にはふたりきりになってしまった。
「さ、駅に行こうか」
夏目さんに促され、私は頷くしかなかった。
駅のホームで送ってくれなくても大丈夫だと伝えるが聞き入れてもらえない。
多少遅い時間ではあるが、同僚と食事をするといつもこのくらいの時間になるので特に心配なこともない。
満員の中、ドアの近くで夏目さんにガードされるように私は彼の腕の中にいた。
心臓の音がうるさくて、彼の匂いが懐かしくてもどかしい。思わず彼のスーツをそっと掴んでしまった。
それに気がついた彼は私を見下ろしてきた。
「大丈夫?」
小声で聞かれ、小さく頷いた。
見上げた彼の優しい顔にまた胸が苦しくなるが、マフラーを見て私はハッと息を飲んだ。
また勘違いしてしまうところだった。彼の行動は純粋に友達としての優しさだ、間違ってはいけない。
私は電車の揺れに紛れ、そっと手を離した。
するとなぜか彼は片手で私をそっと抱き寄せた。
その行動に私の胸はギュッと締め付けられる。もどかしいこの想いに蓋をする努力をしているのに彼はどうしてこういうことをするの? 誰にでもこうやって優しくして勘違いさせるの?
彼の顔を見たくても見上げることができない。今の私の顔も見せられない。
駅に到着するまでの15分間、ずっとこのままの体勢で過ごしていた。ドアが開くたびに人の流れが動くが、決して彼は私を抱き寄せたまま距離が開くことはなかった。私は目の前にあるマフラーをずっと見つめながら、このまま彼の腕の中にいたいと願う気持ちと葛藤していた。
駅に到着すると私はさりげなく離れようとしたが、なぜか電車を降りた後も私から距離を取らずにいる。
前に一緒に歩いた時もそうだった。彼はパーソナルスペースが本当に狭いんだ。だから私が勘違いしちゃうんだ、と彼を軽く睨んでしまった。私の心を誤解させないで欲しい。
改札を出るとなんだか今の距離感を意識してしまい会話が続かない。
そんな時に彼のスマホに着信があった。見るつもりはなかったが、画面が見えてしまった。そこには【麻央】と表示されていた。
「え?」
「今日は当直ではなくて日勤なんですって。救命救急の市民講座をするって言ってました」
「救急車に乗ってるだけじゃないんだよね。改めて感服するわ」
そんなことを思っていると紗衣ちゃんはメッセージを返していた。
「みんな近くにいるっぽいです。合流するって」
「え?!」
会いたくないのに、そんな私の気持ちとは関係なく話が進んでしまう。
そして彼らは本当に近くにいたらしく、10分で到着した。
「お疲れ〜」
3人はスーツ姿で、いつもの私服とも、青い制服とも違う。でも何故か会社員には見えないがたいの良さがまたアンバランスでなんとも言えない。紗衣ちゃんもそう思ったのか笑っていた。
「スーツ! なかなか似合ってますね」
笑いながら言っていて気持ちがこもっていない。彼らもそう感じたのか、不貞腐れるように私たちのテーブルに腰掛けながら不満げだった。
「出勤はこの姿なんだよ。どうせ着替えるのにな」
「明らかに体鍛えてる3人だから会社員でないのは一目で分かるわー。私服や制服の方がやっぱり似合う」
私も同意するが、隣に座った夏目さんが気になり気もそぞろだ。紗衣ちゃんの隣には加藤くん、お誕生日席に橋口くんが座っていた。
いつも決まっていたわけじゃないが、思い出してみると毎回この並びが常になっていた。
「でもふたりは制服も私服もどっちも可愛いよね」
「白衣は美化されますからね」
「そんなことないよ」
そんな軽口を聞きながら3人は注文し、急いで食べ始めた。
そんなに慌てて食べなくても、と思ったが、私たちが帰ろうとしていたのを知っているので急いで済まそうとしてくれていたのだ。
「明日夜勤だからそんなに慌てなくて大丈夫ですよ。紗衣ちゃんは休みだよね?」
「はい。だから慌てなくても大丈夫です」
それを聞くと幾分スピードが落ちた。
けれどあまり遅くならないうちに、と解散になった。
加藤くんは自然と紗衣ちゃんを送る形になっていて、なんだかすでに付き合っているような雰囲気だった。付き合うのも時間の問題だなと感じるくらいふたりの親密さを肌で感じ、なんだか胸の奥が温かくなった。
「お疲れ〜」
ここからみんな分かれていくものだと思っていたら、夏目さんが私を送ると言い出した。
驚いていると、橋口くんはサラッと「お疲れ様です、また」と手を振り帰って行ってしまった。
あ……と思った瞬間にはふたりきりになってしまった。
「さ、駅に行こうか」
夏目さんに促され、私は頷くしかなかった。
駅のホームで送ってくれなくても大丈夫だと伝えるが聞き入れてもらえない。
多少遅い時間ではあるが、同僚と食事をするといつもこのくらいの時間になるので特に心配なこともない。
満員の中、ドアの近くで夏目さんにガードされるように私は彼の腕の中にいた。
心臓の音がうるさくて、彼の匂いが懐かしくてもどかしい。思わず彼のスーツをそっと掴んでしまった。
それに気がついた彼は私を見下ろしてきた。
「大丈夫?」
小声で聞かれ、小さく頷いた。
見上げた彼の優しい顔にまた胸が苦しくなるが、マフラーを見て私はハッと息を飲んだ。
また勘違いしてしまうところだった。彼の行動は純粋に友達としての優しさだ、間違ってはいけない。
私は電車の揺れに紛れ、そっと手を離した。
するとなぜか彼は片手で私をそっと抱き寄せた。
その行動に私の胸はギュッと締め付けられる。もどかしいこの想いに蓋をする努力をしているのに彼はどうしてこういうことをするの? 誰にでもこうやって優しくして勘違いさせるの?
彼の顔を見たくても見上げることができない。今の私の顔も見せられない。
駅に到着するまでの15分間、ずっとこのままの体勢で過ごしていた。ドアが開くたびに人の流れが動くが、決して彼は私を抱き寄せたまま距離が開くことはなかった。私は目の前にあるマフラーをずっと見つめながら、このまま彼の腕の中にいたいと願う気持ちと葛藤していた。
駅に到着すると私はさりげなく離れようとしたが、なぜか電車を降りた後も私から距離を取らずにいる。
前に一緒に歩いた時もそうだった。彼はパーソナルスペースが本当に狭いんだ。だから私が勘違いしちゃうんだ、と彼を軽く睨んでしまった。私の心を誤解させないで欲しい。
改札を出るとなんだか今の距離感を意識してしまい会話が続かない。
そんな時に彼のスマホに着信があった。見るつもりはなかったが、画面が見えてしまった。そこには【麻央】と表示されていた。