再会から始まる両片思い〜救命士の彼は彼女の心をつかまえたい〜
「フォッカッチャもすごく美味しいです」

「ここはたまたま仕事で近くに来た時に見つけたんだ。いい匂いと行列に惹かれて一度来てみたらハマってな。ただ、ひとりで店内で食べるのはちょっと恥ずかしくていつも持ち帰りなんだ」

「そうなんですね。住宅街の中にこんな美味しいお店があるなんて知りませんでした」

温かいご飯でお腹の底まで満たされ、心が緩んだ。

「俺ものどかちゃんと来れてよかったよ。焼きたてのパンもこんなに食べれたし」

夏目さんの表情にホッとした。
ずっと彼への気持ちを抑えてきたのに、なぜか今日こうして彼を目の前にするともう難しく考えるのはやめ、今の時間を大切にしたいと思った。
私の気持ちとは裏腹にこのままの時間が楽しすぎて、いつまでもこの時間が続いたらいいと感じてしまった。
以前のように会話が弾み、他愛のない言葉遊びが続き笑い合う。どうして彼のことが忘れられるの? 忘れられるはずがなかった。私の心から消えるはずなんてあるわけなかった。私の心は彼を欲していると理解せざるを得なかった。干からびさせようとしていた心が満たされていくのを感じていった。

「今日は誘ってくれてありがとうございました」

楽しい時間はあっという間で、もっと一緒にいたかった。
でも私にはそれを言える資格はない。
それでも友達という立場からはもうおりたくない。無理に今の関係を崩したくはないと強く思った。
彼が彼女を大切にしているのなら迷惑はかけない。自分が納得するまで彼のことを勝手に好きでいたらいいのではないかと思ったら何だか吹っ切れた。
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