再会から始まる両片思い〜救命士の彼は彼女の心をつかまえたい〜
***
「のどかちゃんには似合わない」

つい言ってしまったこの言葉に、彼女は傷ついた顔をして走り去ってしまった。

クリスマス当日、仕事だった俺はのどかちゃんにメッセージを送るとすぐに返信が来た。彼女らしい言葉選びに、今日一緒に過ごせたらどんなに楽しかっただろうかと勤務中なのに不謹慎ながらずっと考えていた。仕事帰りに見つけたお店でつい彼女に似合いそうなピアスを買ってしまった。建前は友人として、いやひとりの彼女が好きな男として渡せたらと言うのが本心だった。ずっとカバンの中に入れ、持ち歩き続けていた。
正月明けの勤務でたまたま原島総合病院への搬送があった。彼女は俺には気が付かなかったようだが、久しぶりに遠目に彼女を見れてとても嬉しかった。この時間に働いているってことは日勤なのだと確信し、仕事が終わった後病院に戻り彼女を食事に誘いつつピアスを渡そうと勝手に盛り上がっていた。あわよくば彼女に付き合いたいと伝えられたらと思っていた。職員出入り口が見えるところで待っていると18時を過ぎた頃彼女が出てくるのが見えた。彼女に声をかけようとベンチから立ち上がり、歩き始めようとした時に後ろから来た原島先生が見えた。待ち合わせしていたようで、そのままふたりは楽しげな様子で車に乗り込んでどこかへ行ってしまった。
原島先生といえば外科のホープ。病院の御曹司であるのはもちろんだが、海外でも経験を積んできた優秀な先生だ。人当たりもよく人望も熱い。我々救急隊からの評判もかなりいい。
でも彼は既婚者だ。
そんな彼となぜ彼女は車に乗り込んで出かけていくのか。
周りに誰かいる様子もない。
放心したままふたりが出かけていくのを見送るしかなかった。
家に帰ってからも先ほどの光景が浮かび、なんともいえない気持ちになる。
彼女に不倫は似合わない。
もどかしくなるが何もできなかった自分が情けない。
彼女にはそんな暗い道でなく、明るい道を歩いてほしい。その時隣にいるのは自分でありたいと今までよりも強く彼女のことを思った。
だから今日彼女に会って、つい語気を強め彼女に一方的に攻めるような言い方をしてしまった。
「不倫なんてしてない」と言い残し走り去った彼女。彼女の話を聞くことなく、自分の気持ちを一方的に話してしまった俺は慌てて話を持ち直そうとしたが遅かった。
昔からよくいえばまっすぐ、悪くいえば思ったらすぐに行動に移してしまう脳筋だと言われてきた。今更だが、もう少し言い方があったと思う。
彼女に告白しよう思っていた矢先に原島先生との仲を見てしまったからついふたりの仲を勘ぐってしまった。
残された俺はすぐに追いかけようとしたが、なんて言ったらいいのかわからなかった。
ここですぐにやり直さなければ絶対に後悔する。そう思った俺はすぐに行動に出た。
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