もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
「……あー、はは……。実は、捨てられたんです、彼氏に二股を掛けられてた挙句に……。デート中に本命の彼女と鉢合わせて発覚するとか、もう漫画みたいで笑っちゃいますよね。一年半も気づかなかったなんて、ほんとバカです、私……」
こんな話、いきなり聞かされても困るかもしれない。でも、すごく惨めで恥ずかしい話だけれど、この際誰かに話して笑い話にでもしたかった。笑い飛ばして、吹っ切ってしまいたかった。
だから吐き出した白い息に無理矢理笑いを乗せれば、犬飼さんのいつも無表情なその顔が痛々しそうに歪んで、その手がそっと私の頬に触れた。
彼の表情が分かりやすく変わるのを、私はこの時初めて見た。
「……無理に笑わなくて良い。一体いつからここにいたんですか。すごく冷えてる。送って行きますから風邪を引く前に帰りましょう」
上手く笑えなかったのは、寒さで表情筋が凍てついてしまったからか、それとも。
「……嫌です」
「え?」
私の頬から手を離し、今度は私の腕を取って立ち上がらせようとしていた犬飼さんは、明らかな拒否の言葉を告げて腰を上げようとしない私に戸惑いの声を漏らした。