もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
「いません。だから問題ない」
それでも煮え切らない私に、犬飼さんは最後に言い切った。
「職業柄、葉菜先生をこのままここに放って置くことは出来ない。弱っているあなたに手を出すことは決してしないと誓うから、来ませんか?」
正直、とても有難い申し出だと思う。あの家には帰りたくない。だからと言っていつまでもここにいる訳にもいかない。ならばこれは、渡りに船なのかもしれない。
深い紫黒色の瞳はどこまでも真っ直ぐで真剣で。この人ならきっと大丈夫だと思った。
「わ、分かりました。お邪魔、します……」
「はい。じゃあ行きますよ」
きゅ、と少しだけ口角を持ち上げた彼はもう一度私の腕を引き、今度は私もそれに逆らうことなく素直に従った。
そして手を引かれるがままにとぼとぼと犬飼さんの後をついて行く。その後ろから、三日月も付いてくる。
繋がれる、というよりは掴まれているという表現の方がしっくりくる手からじんわりと伝わってくる熱に、荒んで強張っていた心が少しだけ解れた気がした。